1878年第3回パリ万博

科学と芸術の国、フランス

【コラム】アクアリウム

19世紀半ば頃、ガラスケースを用いて動植物を育てることが流行していた。ワード(N. B. Ward)が1829年に作ったシダなど陸生の植物と小動物を入れるワーディアン・ケース、ウォリントン(Wrrington)が1849年に作った水生動物と水中植物を入れるウォリントン・ケースがそれである。特に、水中の生き物を入れるケースをアクアティック・ヴィヴァリウム(Aquatic Vivarium)などと呼んでいた。

1851年第1回ロンドン万博には、ワードのケースが出展されている。そして1853年、ロンドン動物園内に世界初の水族館が作られた。これもやはり水槽を台の上に並べて展示するというもので、"フィッシュ ハウス(Fish House)"と呼ばれた。

現代の「水族館」を指す言葉であるアクアリウム(Aquarium)の初出には諸説あるが、ロンドン動物園に水族館を作る際に、自身が飼っていたサンゴやイソギンチャクを提供した ゴッス(P. H. Gosse)の功績が大きい。彼は、これまで別の意味を持っていたアクアリウムを、アクア(Aqua)とヴィヴァリウム(Vivarium)をまとめた新しい用語として提案した。また、彼は、飼育している生物を観察して緻密な彩色図にまとめたThe Aquariumを刊行し、それまでにないリアルな描写でベストセラーになった。これまでは死んだ状態でしか描けなかった水中の生物を、生きたまま描けたのは水槽という装置のおかげである。これらにより、魚を入れる装置全般を「アクアリウム」と呼ぶようになったと推察される。右冒頭の美しい水槽も、「アクアリウム」として出展されている。

さて、「水族館」の建設は、瞬く間にヨーロッパに広がっていった。その発展には、イギリス人ロイド(A. Lloyd)の功績も欠くことができない。彼は砂濾過槽を用いた循環飼育装置を考案したのである。彼の考案した循環飼育装置は、1878年と1889年のパリ万博での水族館に採用された。また、1851年ロンドン万博で使用されたクリスタル・パレスは1871年に水族館に改修され、そこでもロイドの循環飼育装置が採用されている。

右画像は、1878年のパリ万博で作られたトロカデロ水族館である。自然の水底を模した見事な水槽内装飾が施され、「アクアリウム」と呼ばれている。わずか20年の間に、卓上の水槽から壁面を利用した水族館へ変化したことがわかる。飼育水の処理法が改善されたこと、大型で厚い水槽ガラスの製作が可能になったこと、漏水の防止方法の改良、大型水族展示飼育への志向などが、水槽の大型化を促し、大型の作りつけの壁水槽を実現させた。壁水槽は前面のガラス面以外は、収容飼育する水族の形態・生態に見合った装飾にすることができるため、生物をより長生きさせ、さらに、よりエンターテイメント性を増すことができた。ちなみに、このトロカデロ水族館はその後、約100年間そのままの形を保持し、パリの人々の目を楽しませることとなった(1985年から閉館していたが、2006年にリニューアルオープンした)。

参考文献:

鈴木克美 『水族館』 法政大学出版局 2003 <RA12-H11>
鈴木克美, 西源二郎 『水族館学 : 水族館の望ましい発展のために』 東海大学出版会 2005 <RA12-H23>
堀由紀子 『水族館のはなし』 岩波書店 1998 <RA12-G26>
George, B. S.: Popular history of the aquarium of marine and fresh-water animals and plants (Lovell Reeve, 1857) <60-256>
Philip, H. G.: The aquarium: an unveiling of the wonders of the deep sea. ( J. Van Voorst, 1856) <68-67>