『伊勢物語』は、歌人
本書は、『源氏物語』と並んで、謡曲をはじめとする後世の文学に大きな影響を与えた。江戸時代にも、業平は色好み、美男の典型として、文学、芸能、美術に盛んに登場する。
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わが国では中世まで、古典の学習は、師から弟子への伝授によって行われることが主流であった。語句や本文の解釈等は、こうした方法によって伝えられていった。『古今和歌集』『伊勢物語』『源氏物語』など、歌人の教養とされた古典は代表的な例である。その過程で「古今伝授」のような秘伝も生じた。また、儒教の経典などに関する学問は、博士家の世襲によって伝えられた。
古典が今日に伝えられたのは、古典学者をはじめとする人々の努力のおかげであり、写本や注釈書、講義の聞書は、その継承の過程で作成されたものが多い。しかし、中世までは、古典の継承はかなり狭い範囲にとどまっていたことは否めない。古典が一般に普及するようになるのは、近世に印刷により刊行されるようになって以後のことである。
第1部では、和漢の有名な古典を選び、その受容、継承のありさまを展示する。
伊勢物語
1 伊勢物語
- 〔近世初期〕写 1冊 24.9×19.0cm <WA16-29>
室町時代の歌人正徹(1381-1459)による写本の転写。書名は原表紙の書き
- 題簽
- 書物の書名、巻次などを記し、表紙に貼った紙片。筆で書いたものを「書き題簽」、印刷したものを「刷り題簽」という。
- 本奥書
- 書写の際に、元来あった奥書を写したもの。
- 奥書
- 書物の最後の部分または本文のあとに記された文章。著作、書写、校訂、相伝等に関する内容が多い。
2 伊勢物語
- 慶長13(1608)刊 2冊 27.1×19.4cm <WA7-238>
古活字版。嵯峨本。『伊勢物語』の最初期の刊本。嵯峨本は、
- 具引き
- 紙の面に胡粉を塗る手法。
- 整版
- 版木に文字や絵を逆に彫り、墨を塗り紙をあててバレンでこすり印刷したもの。活字版に対する。明治以前の版本のほとんどは、この方法で印刷された。
3 伊勢物語聞書
- 3巻 宗祇講 肖柏聞書 慶長14(1609)刊 3冊 25.7×18.9cm <WA7-29>
古活字版。嵯峨本。『伊勢物語』の注釈書。書名は内題による。印刷の原題簽には「肖聞抄」とある。「伊勢物語
- 内題
- 書物の内部に記された書名。狭義では巻頭(本文の最初)にある書名(巻頭書名)をいう。外題に対する語。
4 惟清抄
- 三条西実隆講 清原宣賢聞書 〔室町時代末期〕写 1冊 27.6×22.5cm <WA16-50>
『伊勢物語』の注釈書。原表紙左上部に「
- 綴葉装(列帖装)
- 何枚か重ねた料紙を内側に二つ折りにしたものを何折か重ねて表紙をつけ、糸で綴じた装訂。平安時代以降の歌集、物語等の写本に多い。