補章 味わう~お料理とりそろえ~

最後に、「味わう」という観点から鳥の食文化についても少しご紹介します。現代の私たちにとって、鶏肉や卵は身近な食材ですが、江戸時代の人々はどのように味わっていたのでしょうか。


右上には、シャモ鍋(かしわ鍋)の
屋台が描かれています。


卵とじを食べる様子が描かれています。

江戸時代初期の代表的な料理書である『料理物語』から、ニワトリや卵の味わい方を見てみましょう。
『料理物語』の第一~第七の部では、各部で魚や鳥、獣や野菜の種類によって適した料理名が挙げられ、第八~第二十の部では、現在のレシピ本のように、料理の作り方が解説されています。
※なお『料理物語』は、第17回 日本のだし文化とうま味の発見でも紹介しています。

「第四 鳥の部」では18種の鳥が扱われ、ニワトリについては次のような記述があります。

には鳥 汁、いり鳥、さしみ、めしにも。玉子はふわふわ、ふのやき、みのに、丸に、かまぼこ、そうめん、ねり酒、いろいろ。

ここではその中から、汁(南蛮料理)、いり鳥(煎り鳥)、ふわふわ(玉子ふわふわ)、そうめん(玉子ぞうめん)の4種類を紹介します。南蛮料理と煎り鳥は鶏肉の煮物、玉子ふわふわと玉子ぞうめんは、溶き卵を使った料理です。

以下の画像をクリックすると、『料理物語』のレシピの現代語訳を読むことができます。

  1. ニワトリの毛を抜き、頭と脚と尾を切り取り洗う
  2. 鍋に、ニワトリと、大きく切った大根とを入れる
  3. 鍋に、水を材料が浸るよりも多めに入れる
  4. 大根が軟らかくなるまで煮る
  5. ニワトリを取り出し、肉を細かくむしる
  6. ニワトリを取り出した後の鍋にたまりを少し入れ、さらに大根を煮る
  7. 食卓に出す時に鶏肉を再び鍋に入れる
  8. 酒塩(調味料の酒と塩)を入れるのがよい
  9. ニンニクなどを吸い口として入れる
  10. 味噌で薄く味付けすることもある
  11. ヒラタケやネブカ(ネギ)などを添える
※16世紀後半に、スペイン人やポルトガル人によって伝えられた、ネギやトウガラシを使ったり、油で揚げたりするなど、それまで日本の料理になかった調理法を用いる料理をまとめて「南蛮料理」と呼んでいました。
  1. まず皮を煎り、その次に身を煎る
  2. だしたまりを加減して煮る。煎り酒を加えることもある
  3. セリ、ネブカ(ネギ)、クキタチ(アブラナ)などを入れるとよい
  4. 吸い口は、ユズやワサビなど

※この部分ではカモの場合のレシピが紹介されていますが、先述のとおり、「第四 鳥の部」では、鶏の料理としても「いり鳥」が挙げられています。
※「だしたまり」は、どのようなものだったのか現在では分かっていません。
  1. 卵を割る
  2. 卵の分量の1/3の量のだしたまり、煎り酒を加える
  3. よくふかせる。固くなるとよくない
  4. 吸い口は、ユズやワサビなど
  5. いなのうす(イナ(ボラの幼魚)の胃の一部)や、鳥のももげ(内臓)を加えたものは、野衾とも言う
  1. 卵を割り、よくかき混ぜる
  2. 白砂糖を煮立てる
  3. よくふかせる。固くなるとよくない
  4. かき混ぜた卵を、卵の殻ですくい、煮立てた白砂糖の中に細く注ぎ込む
  5. 注ぎ込んだ卵を取り出し、よく冷ます

再現してみると…

『料理物語』のレシピを参考に、それぞれの料理を再現してみました。
※現代の食材を利用しているため、画像はイメージです。

南蛮料理

ダイコンの水分によるものか、あっさりした味になりました。再現では煮汁がなくなるまで煮つめましたが、汁物か否かまではレシピからは判断がつきません。

煎り鳥

「だしたまり」には出汁と醤油を使いました。出汁・醤油・煎り酒の風味と、付け合わせのユズやワサビがよく合います。

玉子ふわふわ

名前の通り、上の方はふわふわとした食感です。底の方は具のない茶碗蒸しのような味わいでした。

玉子ぞうめん

素麺状に細くするのが難しいです。『料理物語』では言及されていませんが、黄身と白身を分離し、白身が混ざらないようにすると、より素麺状に近い仕上がりになります。

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おわりに・参考文献



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