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日本全国の地方暦 その1
はじめは国家の機関や貴族だけのものであった暦も、仮名暦(かなで書かれた暦)が普及してくると、これを一般の人々も求めて使用するようになりました。そのため、暦の需要は増大し印刷された暦が発行されるようになりましたが、京都などで印刷する暦だけでは需要を満たすことができず、各地でその土地に適した暦が発行されました。
古くは、三島・南都・丹生、江戸時代に入ってから発行された伊勢暦や江戸暦など、それぞれ特色ある形態と内容を持っていましたが、貞享の改暦以降は暦注などの内容が統一されました。
地方暦に記載される内容はおおよそ次のような構成になっていました。
- 暦首(暦の始めの部分)に暦の発行者が示され、その年の特徴などを述べた前文などが続くこともある。
- 方位の吉凶が文章や図で示され、各月の大小一覧などがある。
- 正月から、各日の日にち、干支、十二直、納音(なっちん)の五行、各日の吉凶などの記述が続く。
この地図は、中世以降の地方暦の発生地を示しています。なお、色分けは、明治6年(1872)(旧暦から太陽暦への変更が行われた年)前後の主な地方暦の分布です。
京暦(きょうごよみ)
京暦には、大経師(だいきょうじ)暦と院御経師(いんのみきょうじ)暦の2種類があります。大経師暦は浜岡家、後、降屋家、院御経師暦は慶長18年(1613)以後菊沢家から発行されました。全国に売暦(暦を売ること)自由とされ、北陸・東海以西の西日本に多く販売されました。文政年間(1818~30)には、松浦善右衛門が大阪に京暦弘所を開き、綴暦(とじごよみ)等を発行しました。また、幕末には中嶋利左衛門と河合弥七郎が販売元として加わりました。
タイトル(巻) | 著者名 | 形態事項 |
---|---|---|
京暦.慶安4(大経師暦) | — | 1軸 ; 21cm×158cm |
出版年 | 出版者 | 出版地 |
1650(慶安3年) | 大きゃうじ | 京都 |
注記 | 分類 | 請求記号 |
尾島碩宥旧蔵古暦 | 449.81 | 本別15-21 |
国立国会図書館所蔵の中では最も古い大経師暦。
タイトル(巻) | 著者名 | 形態事項 |
---|---|---|
[京暦]慶応4(院御経師暦) | — | 1帖 ; 28cm×105cm |
出版年 | 出版者 | 出版地 |
1867(慶応3年) | 菊澤藤蔵 | 京都 |
注記 | 分類 | 請求記号 |
新城文庫 | 449.81 | 寄別12-6-15(3-13a) |
暦首に「京都 院御経師菊澤藤蔵」とある。
南都暦(なんとごよみ)
南都暦は、奈良の陰陽師(おんみょうじ)によって製作された暦で、奈良暦ともいいます。暦の発行にかかわっていた暦師は、14家(多少の異動あり)で、その暦は綴暦(とじごよみ)、古くは巻暦(まきごよみ)もあったといわれます。賦暦(無償で配る暦)と売暦(販売する暦)があり、売暦は中尾、山村の2家にのみ許され、また、売買は江戸時代には大和一国に限られていました。南都暦の頒布には春日大社の講の組織などが関わっていました。
南都暦の起源は15世紀中頃まで遡るとされていますが、初期の南都暦の特徴の一つはカタカナ暦があることといわれています。古くは、幸徳井(こうとくい)家が暦を作っていましたが、陰陽師との関係は明らかではありません。
タイトル(巻) | 著者名 | 形態事項 |
---|---|---|
南都暦(明暦3年(1657)) | — | 26cm×45cm |
出版年 | 出版者 | 出版地 |
1656(明暦2年) | 藤村甚太夫安政 | 南都(奈良) |
注記 | 分類 | 請求記号 |
歳首から3月17日、5月15日から12月30日 | 449.81 | YR1-104 |
暦首に「南都 藤村甚太夫安政誌之」とある。簡単な暦注のあと、正月大からの記述が続く。
丹生暦(にゅうごよみ)
丹生暦は、伊勢国飯高郡丹生(にゅう)(現在三重県多気郡勢和(せいわ)村)の賀茂杉太夫(かもすぎだゆう)が伊勢国司北畠氏の庇護のもとに発行した暦で、享禄5年(1532)にはすでに存在していた記録があります。江戸時代には、この地は紀州藩領となったので、丹生暦は紀州藩領に広く使用されました。
折暦(おりごよみ)、綴暦(とじごよみ)、1枚綴りの略暦(りゃくれき)の3種類がありましたが、特に折暦は後の伊勢暦の形態に影響を与えたといわれます。丹生暦は、伊勢暦の盛行に伴って次第に廃れていきました。
タイトル(巻) | 著者名 | 形態事項 |
---|---|---|
[丹生暦]明暦3 | — | 1軸 ; 24cm×109cm |
出版年 | 出版者 | 出版地 |
1656(明暦2年) | 加茂杦太夫 | 勢州飯高郡丹生(三重県多気郡勢和村) |
注記 | 分類 | 請求記号 |
尾島碩宥旧蔵古暦 | 449.81 | 本別15-21 |
現存する丹生暦の中でも最古といわれる。
伊勢暦(いせごよみ)
伊勢暦は、伊勢国宇治ならびに山田の暦師が発行した折暦(おりごよみ)で、寛永8年(1631)に山田の森若大夫(もりわかだゆう)が製作したものが始めといわれ、後に宇治の内宮暦(ないくうれき)も発行されました。山田の暦師は、時期によって20人、また14人と変わりましたが、内宮暦師は1人でした。伊勢暦は、伊勢神宮の御師(おし)達が神宮の大麻(たいま)(お札)とともに各地の檀家に配ったもので、最も広く知られ、江戸時代の代表的な暦とされました。
伊勢暦は、すべて折暦で、大小、紙質、装丁などは様々ですが、共通しているのは6月までとそれ以降の2枚の板で仕立てていることで、これは1年が2巻より成っている具注暦に倣っているものといわれています。
タイトル(巻) | 著者名 | 形態事項 |
---|---|---|
縞揃女弁慶 | 一勇斎国芳(歌川国芳) 画 | 1帖 |
出版年 | 出版者 | 出版地 |
— | — | — |
注記 | 分類 | 請求記号 |
錦絵8枚貼込(10枚揃の内2枚欠) | 721.8 | 寄別2-3-1-5 |
歌川国芳(うたがわくによし 1797~1861)画。弁慶縞(べんけいじま)の着物を着た美人画10枚揃い(所蔵分は2枚欠)の中の1枚。天保15年(1844)の伊勢暦を見る女性を描く。竹屋直成の狂歌には弁慶にちなみ勧進帳の語句が読みこまれている。
タイトル(巻) | 著者名 | 形態事項 |
---|---|---|
[伊勢度会暦]寛政10 | — | 1帖 ; 31cm×164cm |
出版年 | 出版者 | 出版地 |
1797(寛政9年) | 瀬川舎人 | 伊勢度会郡山田(伊勢) |
注記 | 分類 | 請求記号 |
新城文庫所収 | 449.81 | 寄別12-6-11(27-19) |
寛政の改暦後、最初の伊勢暦。前文に「順天審象定作新暦依例頒行四方遵用」とあり、新暦に基づいて作成したことを示している。
タイトル(巻) | 著者名 | 形態事項 |
---|---|---|
[伊勢度会暦]文政3 | 葛飾北斎 画 | 1帖 ; 31×160cm |
出版年 | 出版者 | 出版地 |
1821(文政2年) | 箕曲主膳 | 伊勢度会郡山田(伊勢) |
注記 | 分類 | 請求記号 |
特製。新城文庫所収 | 449-81 | 寄別12-6-11(7-43) |
地方暦の中でも広く普及した伊勢暦。すべて折本だが、大きさ、装丁などに変化が多い。この暦は特製で表紙を金で飾った豪華なもの。