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第10回科学技術情報整備審議会議事録
日時:
平成30年7月25日(水)午後3時から午後5時まで
場所:
国立国会図書館東京本館 総務課第一会議室
出席者:
科学技術情報整備審議会委員 10名(欠席2名)
西尾章治郎委員長、竹内比呂也委員長代理、ロバート キャンベル委員、児玉敏雄委員、佐藤義則委員、千原由幸委員、戸山芳昭委員、濵口道成委員、藤垣裕子委員、村山泰啓委員
(石田徹委員、喜連川優委員は欠席。)
館側出席者 18名
館長、副館長、専門調査員(調査及び立法調査局文教科学技術調査室主任)、(幹事)総務部長、調査及び立法考査局長、収集書誌部長、利用者サービス部長、電子情報部長、関西館長、国際子ども図書館長、(陪席)総務部企画課長、総務部会計課長、収集書誌部主任司書、利用者サービス部副部長、利用者サービス部サービス企画課長、調査及び立法考査局科学技術室長、(事務局)利用者サービス部科学技術・経済課長、電子情報部副部長電子情報企画課長事務取扱
会議次第:
開会
館長挨拶
新委員紹介
新幹事紹介
委員長選任
委員長代理指名
報告及び懇談
(1)第四期国立国会図書館科学技術情報整備基本計画の進捗状況について
<質疑応答>
(2)懇談
閉会
配付資料:
(参考資料)
議事録:
1. 開会
片山利用者サービス部長:
ただ今から第10回科学技術情報整備審議会を開催します。
この度は、委員に御就任くださいまして誠にありがとうございました。また、お忙しいところ、当審議会に御出席くださいましてありがとうございます。
本日の審議会ですが、現在、委員長が空席となっていますので、委員長選任までの間、暫定的に幹事である私、片山が進行役を務めさせていただきます。どうぞよろしくお願いします。
本日は、石田徹委員及び喜連川優委員が御欠席されていますが、12名の委員中10名の委員に御出席いただいていますので、定足数は満たされています。
お手元の会議次第に従って会を進めさせていただきます。
開会にあたり、館長の羽入が御挨拶申し上げます。
2. 館長挨拶
羽入館長:
皆様こんにちは。暑い中お出でいただきまして、誠にありがとうございます。
今回は第10回の審議会となります。10回というと10年くらいかと思いがちですが、前身の審議会を含めると1961年から開催されていました。国立国会図書館(以下「NDL」)が開館してから今年で70周年になりますので、この審議会はそれにほぼ匹敵する歴史を持っているということです。
近年は当審議会からの御提言を基にして、当館の科学技術情報整備基本計画を策定してきました。現在は第四期の計画が進行中で、3年目の今年は5か年計画の折り返し地点に当たります。日本の学術情報の基盤となる組織を担われ、また国際的な状況を把握しCSTIなどの場でも発言していらっしゃる皆様によって審議会が構成されていることを大変心強く、また光栄に思っています。同計画の中にあるオープンサイエンスに対して、NDLとしてどのような役割を果たしていくか、これはかねてからの課題であり、改めてお知恵を拝借したいと思います。立法府としてのNDLの機能を効果的に発揮するための御提案をいただきたく、是非、忌たんのない御発言をお願いします。
今回は、まず、同計画に関する当館の取組状況を御紹介します。その後、調査及び立法考査局が行っている「科学技術に関する調査プロジェクト」について御説明します。続いて、藤垣委員、佐藤委員、濵口委員から話題提供をしていただきます。各委員におかれましては、お忙しい中、御快諾くださり、誠にありがとうございます。
最後に、昨年12月に副館長が交代しましたので、御紹介します。坂田和光が新たに副館長に就任しました。どうぞよろしくお願い申し上げます。
3. 新委員紹介
片山利用者サービス部長:
会議次第の「3.新委員紹介」に移ります。委員名簿を資料1として配付しておりますので御覧ください。
今期から、国文学研究資料館のロバート キャンベル館長と文部科学省大臣官房の千原由幸審議官が新たに委員に御就任くださいました。
4. 新幹事紹介
片山利用者サービス部長:
会議次第の「4.新幹事紹介」に移ります。委員の活動を補佐する幹事を御紹介します。幹事には当館の部局長等が任命されています。
当館内の人事異動に伴い、幹事に異動がありましたので御報告します。山地収集書誌部長、寺倉国際子ども図書館長が前回の審議会以降に新たに幹事に任命されました。
本日は、幹事のほかに、羽入館長、坂田副館長、豊田専門調査員、審議会事務局の職員が同席しています。どうぞよろしくお願いします。
5. 委員長選任
片山利用者サービス部長:
会議次第の「5.委員長選任」に移ります。お手元の参考資料1「科学技術情報整備審議会規則」第2条第5項の規定に従って、委員長を委員の皆様の互選により選任していただきたいと思います。どなたか御推薦いただけないでしょうか。
佐藤委員:
甚だせん越ではございますが、研究・教育全般の御経験・御見識の観点から、引き続き西尾委員に御就任いただくのが最もふさわしいと考え、御推薦申し上げます。
片山利用者サービス部長:
ただ今、佐藤委員から西尾委員を委員長にと御推薦いただきました。委員の皆様の御異議がないようでしたら、西尾委員に委員長をお願いしたいと思いますが、いかがでしょうか。
全員:
異議なし。
片山利用者サービス部長:
それでは、当審議会の委員長は西尾委員にお願いしたいと思います。西尾委員長には委員長席に移動していただき、これ以降の議事を進めていただきたいと思います。
西尾委員長:
私のような者で任が務まるかどうか甚だ不確かなところですが、少しでもNDLのお役に立てればという気持ちで委員長を務めさせていただきます。
NDLには、国会・国民と科学技術情報をつなぎ、また各図書館が連携する上でのリーダーシップを発揮するという、大きな役割を担っていただいています。科学技術情報のみならず、本来公共財であるべき知識というものを社会の中でどう循環させていくのか、これは大きな課題です。最終的には文化というものにも関わっていくと思います。皆様と忌たんのない議論を展開できればと思います。どうかよろしくお願いします。
6. 委員長代理指名
西尾委員長:
会議次第の「6.委員長代理指名」に移ります。審議会規則第2条第7項の規定に従い、委員長が不在の場合に委員長に代わって審議会を運営するために、竹内委員に委員長代理をお願いしたいと思います。御異議ありませんか。
全員:
異議なし。
西尾委員長:
委員長代理は竹内委員に決定しました。竹内委員、よろしくお願いします。
竹内委員長代理:
よろしくお願いします。
7. 報告及び懇談
西尾委員長:
会議次第の「7.報告及び懇談」に移ります。事務局が報告した後に、報告への質問を受け付けます。懇談は事務局の報告と質問が終わった後に行います。
(1)第四期国立国会図書館科学技術情報整備基本計画の進捗状況について
上保科学技術・経済課長:
(資料2に基づき説明)
西尾委員長:
ただ今の報告に対する御質問はありませんか。
児玉委員:
着実に活動していることは理解できましたが、計画どおり進捗しているのでしょうか。例えば予算上の制約などから、計画どおり進んでいないものはないですか。
小寺電子情報部長:
大きな課題としては、先ほど御報告したデジタル化を更に進めていきたいということがあります。しかしながら、今まで外部委託によって進めてきたのですが、1枚当たりの単価も高く、非常にコストがかかっています。これを内製化してコストダウンし、また作業を加速することができないか。そうした検討に鋭意取り組んでいるところです。
西尾委員長:
計画はクリアしているが、もっと進めたいので予算面も含め検討しているということですね。
小寺電子情報部長:
そのとおりです。例えばDOIの付与などについては当初の想定よりもかなり進んでいると考えています。
キャンベル委員:
内製化は是非実現してほしいと思います。その際、例えば資料に応じた特殊なスキャナなどの機材を開発することが必要ですが、国文学研究資料館では今年度から本格的に、全世界にある古典籍を対象として、機材を共同開発して無償提供あるいは貸与しています。さらにそのマニュアルを作って人々を訓練するということまでをやっています。これはかなり多角的な事業ですが、資料によっては作業の単価を大幅に下げることができます。予算措置も含めて計画がスムーズに遂行されることを願っています。
質問ですが、スライド8に記載されている『国立国会図書館資料デジタル化の手引』はオンラインで無償公開されているのでしょうか。NDLで蓄積した技術や知見が共有されるのは大変有意義なことだと思います。
片山利用者サービス部長:
同『手引』は当館ホームページで公開しています。
竹内委員長代理:
同じくスライド8のデジタル化の推進について、もちろん長い時間がかかるものだとは思うのですが、最終的にはいつ頃までにというめどは立っていますか。
また、最近私は県立図書館の将来構想に関わっているのですが、そこでもデジタル化が大きな課題になっています。県立図書館が所蔵している資料でNDLでは未所蔵のもののデジタル化が進んでいく可能性がありますが、そういったものにNDLはどう対応していくのでしょうか。
小寺電子情報部長:
今の予算規模からすると、当館所蔵の国内刊行資料に限定したとしても、その全てをデジタル化するのにも数十年単位の時間を要すると思います。残念ながら具体的なめどは立っていませんが、何らかの形で加速させたいと考えて取り組んでいます。
他機関が当館未所蔵の絶版等資料をデジタル化したものについては、図書館送信の枠組みで受け入れて提供していきます。これについては今後、県立図書館・大学図書館等にも御協力いただきながら進めていきたいと考えています。
竹内委員長代理:
他機関デジタル化資料の受入れについて、現時点で具体的な計画はありますか。
小寺電子情報部長:
現在、広報を進めているところでして、反応があったところから順番に取り組んでいます。このような観点でデジタル化に取り組んでいる図書館自体がまだ少ないので、現時点では具体的な数値目標は持っていません。
(2)懇談
西尾委員長:
続いて懇談に移ります。
NDLが第四期科学技術情報整備基本計画の取組を滞りなく進めていることが報告されましたけれども、この審議会で問題にしている科学技術情報をめぐる状況は、本当にドラスティックに動いています。国は第5期科学技術基本計画において、情報通信技術、特にその中のAIやビッグデータ解析を通じて、今だから、ここだから、あなただから必要としている情報をきっちりとサービスできるような「超スマート社会」を構築しようとしています。
これに対しNDLでも、シチズンサイエンスを含む広義のオープンサイエンスの推進が求められている中での図書館、特にNDL自身の役割や今後の方向性について、何らかのアイデンティティを出していくことが重要です。NDLには、図書館として不易流行の、核となるミッションがある一方で、どんどん進化的に変わっていく面があると思います。今後NDLが第五期科学技術情報整備基本計画を立案する上で、その面がオープンサイエンスへの取組という形で強く求められるでしょう。ここできちんと再認識し、議論しておきたいと思います。
初めにNDLから1件、続いて3名の委員からそれぞれオープンサイエンスと社会の関係に関連する話題提供があります。その後に議論に移りたいと思います。まずNDLの豊田専門調査員から、報告「『科学技術に関する調査プロジェクト』の意義と実績」をお願いします。
豊田専門調査員:
(資料3に基づき説明)
西尾委員長:
続いて藤垣委員から、報告「オープンサイエンスの時代の図書館の役割」をお願いします。
藤垣委員:
オープンサイエンスの時代の図書館の役割について、今考えていることをスライドにしたのが資料4です。
スライド2を御覧ください。「オープンイノベーション」「オープンサイエンス」「オープンガバナンス」など、最近「オープン」と冠した言葉がたくさんありますが、「オープンガバナンス」は政府情報の積極的な公開と新たなウェブ技術を活用した、市民参加を促進する動きのことです。オープンサイエンスについて考える上で参考になると思いますので、御紹介します。その意義と目的は、情報公開による行政活動の透明性向上とアカウンタビリティの確保、重要課題への市民参加の促進、情報共有による様々な組織との協働です。公文書を省庁が独自に保管するのではなく、例えばNDLがアーカイブ化して国民がいつでも参照できるようにすれば、豊田専門調査員の報告では国会と科学技術情報をつなぐということでしたが、国民と科学技術情報をつなぐことも可能になると考えられます。ただ、日本の特徴として、オープンガバナンスからオープンデータが独立してしまい、市民参加が置き去りになってしまう傾向がありますので、注意が必要です。
そこから類推してオープンサイエンスについて考えてみたのがスライド3です。欧州では「責任ある研究とイノベーション(Responsible Research and Innovation: RRI)」というものがHorizon 2020に入っています。オープンサイエンスは、RRIにも関係します。RRIとは、研究及びイノベーションプロセスで社会のアクターが協働することです。そのテーマとして、参加、オープンアクセス、ジェンダー平等、倫理、科学教育の五つが挙がっています。日本では、これに類することは科学技術振興機構や文部科学省の科学技術社会連携委員会などでも議論していますが、オープンアクセスがメインになっており、やはり参加や協働が置き去りになっているという特徴が見られます。
そこから今後の図書館の役割を考えてみます(スライド4)。第四期国立国会図書館科学技術情報整備基本計画に沿ってアーカイブが充実しつつある、デジタル化も充実しつつある。それにプラスして何ができるのかと考えると、国会議員と科学技術情報をつなぐこと以外に、国民と科学技術情報をつなぐ、そのための参加を促進するネットワーキングや仕組みづくりがあるでしょう。豊田専門調査員から説明されたテクノロジーアセスメントの参加版とでも言うべき、Constructive Technology Assessment(CTA)というものがオランダを中心に動いています。そういうものを今後考えていくことも可能かもしれないということで、議論のテーマとして挙げておきます。
スライド5は、そもそもなぜ私たちはこれほどまでにデジタル化、オープン化と言わなければならなくなったのかを考えるために、情報技術と出版について整理したものです。出版が知識生産において注目され始めたのは17世紀のことで、学会単位の専門誌共同体ができつつあったのが19世紀です。scientistという言葉ができたのは1840年頃だと言われています。19世紀の後半に科学者の職業化と専門分化が同時に進みました。”Physical Review”や”Chemical Reviews”などの分野別のレビュー雑誌が出てくるのは20世紀初めです。1960年代にはデ・ソラ・プライス(Derek J. de Solla Price)により”The Science of Science”が提唱され、Science Citation Indexがデータベース化されます。社会学者マートン(Robert Merton)によってCitation Indexの重要性が指摘され、インパクトファクターなどの指標が開発されたのが1960年代から20世紀後半のことです。21世紀に入ってウェブが普及してきます。それまで紙媒体だったのが、ウェブ上で科学的データが参照できるようになりました。私は大学では「情報」科目についても教えていますが、ウェブ検索について教えるようになったのもこの頃です。2013年には博士論文の電子化が日本で議論されました。NDLでもリポジトリを作りましたし、各大学でも整備が進んだ年です。2015年になると専門誌の購読料が高騰し、Elsevier社やSpringer社に多大な費用を払わなければならなくなり、大学図書館でも問題となりました。こうして見てみると、今は2018年ですから、デジタル化について議論しなければならなくなったのはたかだか18年前からなのです。どうしてこんなことになってしまったのかと思うときもありますが、こうした出版の歴史の中で、我々は今までにないことを経験しつつあるのだと言えます。
スライド6と7は問題提起です。紙媒体で作られたものをデジタル化するという問題がある一方で、知識生産が出版システムに支えられている中で図書経費が馬鹿にならないものになっているという問題があります。あれだけのお金を取っていたら、普通なら市場原理が働いて安くなったり出版社が潰れたりするはずなのに、なぜそうなっていないのか。その理由の基底には学術の評価システムがあります。個人は業績を上げたいわけです。人事評価は書いた論文の本数とジャーナルの格を主な材料として行われています。省庁間でも、財務省が文部科学省を評価するときにこのシステムを使っています。その結果、本来であれば公共財であるべき知識が、お金を払わないと読めないという状況が生じています。知識を蓄えて一般市民に提供する役割を持つNDLにおいても、ジャーナルの一部についてはそれができなくなっています。
こういう状況に対して、学会の内部から一部ですが反対する動きも出てきています。Natureが人工知能分野で新たに有料論文誌を創ろうとしたところ、約2,000人の機械学習研究者が、今は3,000人くらいになっているそうですが、我々はその出版システムには乗らないと言って反対しました。
出版システムの変革は、研究の進め方や評価にも変革をもたらします。今の出版モデルからどう脱却していけばよいのかという問題が、3月にNDLで開催された支部図書館制度創設70周年記念国際シンポジウム「イノベーションと公共部門の役割」の総合討論でも出ました。印刷文化の慣習をそのまま維持しようとして、ある出版社だけがもうかるシステムになっているけれども、オープンサイエンスと言ったときに印刷文化で作られてきたものをそのままデジタル化することで良いのか。NDLだけではなくてむしろ学協会が考えなくてはいけないことでしょうけれども、印刷文化ベースではない知識生産をどうやって創っていくのかを考えないといけないということを問題提起しておきます。
ちなみにWikipediaで「オープンサイエンス」を引くと六つの意味が出てきます。「オープンデータ」「オープンアクセス」「オープンソース」「オープンエデュケーションリソース」、この辺りは良いのですが、あと二つは「オープンメソドロジー」「オープンピアレビュー」となっていて、そもそもオープンピアレビューとは何なのかよくわかりませんが、そういうことが問題となりつつあるということです。
西尾委員長:
それでは次に佐藤委員から、報告「『オープンサイエンス』と図書館」をお願いします。
佐藤委員:
資料5を御覧ください。藤垣委員のような広い話ではなく、具体的にどうやって研究データを収集、保存、再利用するのかについてお話しします。
新たなデジタル機器の活用によって、これまで捕捉できなかったものを捕捉できるようになりました(スライド2)。そのためにデータの保存と活用という可能性が開けてきましたが、実際にそこに至るまでには、公共財・共有材としての知識情報資源へのアクセス、共有を社会的にどう実現するかという結構難しい問題があるわけです。一方で大学図書館は急速に、テキストベースの旧来のドキュメントから、広がりを持った多様な学術記録を対象とするようになってきました。
スライド3に「競争と共同」と書きました。一般的に大学や研究者は、資金、人材、入学者などを獲得せねばならず、競争的な性質を持っています。しかし図書館は伝統的に、共同的な性質を持ってきました。協力活動なしには図書館は成り立たなかったですし、今後はますますそれが必要になります。もう一つ、出版社との関係には非常に難しい部分があります。研究データに関して積極的なのは政府、資金提供機関、それに出版社です。海外の学術出版社は研究データについて熱心な活動を10年以上続けてきました。出版社間の市場獲得競争や、それに対応する図書館のコンソーシアム契約があり、出版社と図書館はこの部分では戦ってきたわけです。それがオープンアクセス運動にもつながっています。研究データをめぐっては、図書館、政府、出版社の関係性が問われるようになってくると言えます。
スライド7、8へ進みます。統合イノベーション戦略がこの6月に閣議決定されました。その中から、図書館や機関リポジトリに関係した部分を抜き出して挙げています。同戦略の本文中に「図書館」という言葉は出てきませんけれども、「機関リポジトリ」は19回出てきます。しかしながら、国立情報学研究所等を中心にして研究データの管理、公開、検索を促進するシステムを開発していくことがうたわれている一方で、機関リポジトリあるいは図書館が具体的にどのように研究データに関与すべきかについては言及されていません。残念ながら、今の段階では曖昧です。
スライド9に挙げたのは、少し古いものですが、OECDが2015年に出した報告書”Making Open Science a Reality”です。その中で三つの要素とされているものを御紹介します。一つ目はムチに当たる、研究助成金契約、国の戦略、あるいは機関の方針による研究データの公開・保存の義務化です。この点については、統合イノベーション戦略も正にこれに相当すると思います。二つ目は、アメに当たるもの、オープンアクセス出版やデータ公開のコストを負担する財政的支援、評価とキャリア発展のための仕組みといった誘因、すなわちインセンティブに関することです。方針を決めれば皆が喜んで公開するというのが最も理想的ですが、実際には公開に伴うリスクや競争的な部分が関係してきて、なかなかそうはならない。それから、論文は業績になるけれども、データ公開はそもそもインパクトファクターや研究評価の対象になっていないので業績にならない。これに対して政策的な枠組みや国際的な学会での評価などの全体的な機運が高まらないと非常に具合が悪い。実はここが最も不足しているということが幾つかの論文で指摘されています。三つ目は、図書館の役割はここに入りますが、エネーブラーです。研究データを作成する側ではなく、促進する側の役割が四つほど書かれています。1点目は提唱と認知度の向上、つまり広報です。先ほどの報告にもあったように、NDLも既に取り組んでいます。2点目は、大学図書館などの役割になると思いますが、インフラへの支援提供として、評価、選定、メタデータの付与・適用、データ全般に関するキュレーションと保存、検索、再利用のモニタリング、引用と影響度の把握です。3点目は、機関リポジトリに関連しますが、研究データ管理の方針や戦略の整備、実践です。4点目は研究者への訓練と支援、つまりメタデータに関することやデータの保存方法についてトレーニングと支援を提供することです。こういった部分が図書館の役割になるのではないかと指摘されていることになります。
スライド11を御覧ください。これは昨年出た論文の中の、Elsevierのサービス範囲を示した図です。Elsevierは、以前は出版社を買収していましたが、この図が示しているのは、ここ20年間は研究者のリサーチワークフロー全般に関連するような企業を買い漁ってきたということです。例えば14番の”Research Collaboration”を見るとSciValやScopusがありますし、SSRN(Social Science Research Network)は経済学を中心とした社会科学の分野別リポジトリだったものです。12番の”Finding Academic Employment”や10番の”Research Evaluation”はSciValやScopusがこの20年間で力を付けてきた部分で、実際に国の研究評価あるいは大学ランキングに盛んに使われてきました。すなわち、データの公開を研究者の業績評価にどのように組み入れるかという問題は、正にこれまでの出版社の土俵にあるわけです。研究データの公開を考えるに当たっては、この部分とどう折り合いを付けていくかも含めて考えなければいけないことになっています。
スライド12では「シームレスなプラットフォームに向けての競争」という最近の記事を御紹介しています。論文を探して手に入れて研究に活用するまでのプラットフォームについて、大学のキャンパス内だけではなく自宅や学外からも同じように利用できるものが目指されている中で、現在、出版社やその関連企業の間で競争が起きていることが指摘されています。”Elsevier-Mendeley-Scopus-SciVal”はElsevier関連の企業です。”Holtzbrinck”はSpringer Natureの親会社ですが、Digital Scienceという企業を通じてDimensionsというElsevierと競合するようなリサーチアナリティクスの製品を出してきています。ほかにも新しくて面白いものがこの分野では出てきています。
最後にスライド13です。これまで私も大学図書館間、あるいはNDLと大学図書館の枠組みの中でいろいろな共同活動を実施してきましたが、今後は人材や組織体制を通じた知識とスキルの確保、組織を超えた経験と知識の共有、総合的な発見環境の構築といったところでますます協同の必要性が高まっていくだろうと思います。
西尾委員長:
それでは最後に濵口委員から、報告「国際的な科学技術動向を踏まえて」をお願いします。
濵口委員:
私からはオープンサイエンスやオープンイノベーションのバックグラウンドとなっている現在の科学技術動向の特徴を報告します。資料6を御覧ください。
1999年に「科学と科学的知識の利用に関する世界宣言」、いわゆるブダペスト宣言が出されて、その中で科学の役割について、従来の「知識のための科学」以外に「開発のための科学」「平和のための科学」「社会における、社会のための科学」があるということが指摘されました。それがスライド2にある、2015年に出された「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)」へ展開してきたわけですが、17のゴールと169のターゲットから構成されるこの目標は、人類が科学技術を無制限に展開していくと破滅に至る可能性も出てくる時代において、我々はどういう規範にのっとるべきかを示したものだと思います。科学技術振興機構としては、”STI (Science, Technology and Innovation) for SDGs”を掲げて貢献していきたいと考えています。この17のゴールについては、最近のアセスメントでも、世界全体で2030年までに12兆ドル、つまり1,300兆円の投資が動き始めると言われています。企業の営業成績とは別の視点で投資が動き始めるので、社会構造が大きく変化すると考えられますが、その全てのバックグラウンドには情報があります。
その中で世界の科学技術政策も、去年、今年と大きく転換が始まっているように思います。その一つの表れとして、去年出された米国国立科学財団(NSF)の「10ビッグ・アイデア」と「コンバージェンス・アクセラレーター」があります(スライド4)。米国国立科学財団がコルドバ(France A. Córdova)長官のイニシアチブの下にこの10ビッグ・アイデアに大きく投資をして、科学技術を誘導するというものです。10あるアイデアのうち、四つが「プロセス・アイデア」、六つが「研究アイデア」です。プロセス・アイデアの中でも特に重要だと思われるのが「コンバージェンス」と「ダイバーシティ」です。コンバージェンスは、円形のカラフルな図で示されていますが、工学、医学、農学などの分野別の研究開発、科学技術の展開、あるいは知識の集積以外に、これらの8分野を融合して一つの社会的なソリューションにつなげていくような研究の誘導をするということです。また、アメリカではダイバーシティが進んでいますが、それでもダイバーシティを進めなければいけないとされています。研究アイデアの中では「21世紀の科学と工学のためのデータ活用」と「新たな人間と技術のフロンティア形成」が重要です。ほかのアイデアは「生命法則理解」「量子革命」「宇宙物理学」「北極域」で、工学や医学というキーワードは一切出てきません。北極域は、恐らく経済や国益の問題もある一方で、温暖化に直結する研究課題として出てきているのだと思います。
スライド5を御覧ください。欧州では欧州研究会議が「シナジー・グラント」を創設しています。領域別の研究ではなく融合型の研究を展開しないと社会的課題に応えることができないのではないかということで、プロジェクトごとに1,000万ユーロまでを出すとのことです。
一方で、EUでは今年の5月が転換点となっていて、政策がようやく固まったところです。スライド6を御覧ください。この7年間、つまり2020年までは、Horizon 2020によってEU全体の予算が決定されてきましたが、2021年からは、今年の5月に骨格が固まった”Horizon Europe”が始まります。Horizon Europeの研究開発費は、Horizon 2020のそれに比べて30%増だと言われていますが、一説によるとブレグジットの影響で50%増にもなるのではないかということです。図の中に物凄い金額を記載していますが、注目すべきは”Global Challenges”で、社会課題解決型研究を推進するのに投資の50%が充てられます。そのほかは”Frontier Science”に35%、”Innovation”に15%となっていますが、基礎科学に対する投資が少ないのではないかということで今かなり議論されています。全体的に、サステナビリティを実現していくためには従来の分野別の知識体系だけでは不十分であり、イシューオリエンテッドな横串を入れていかなければならない、という論調です。こうした動きは国単位でも起こっています。スライド7はその一例ですが、ドイツではエマージングかつ分野融合的な領域における研究開発を推進し始めています。
分野横断型のソリューションドリブンの研究開発を行うためには、データをメタ解析する機能が重要になってきます。膨大なデータをメタ解析して、どういう分野でどういう展開が起きていて、日本の科学技術はどう展開すべきかを分析することが必要です。これは今、ITで、かなりできるようになってきました。
最後に、私たちがNDLに期待するのは、不易流行で従来の知識を体系化、蓄積、構造化する機能と共に、持っている情報を分析して日本の科学技術政策に活かすような機能を持つことです。デジタル化の次にはこれが来るべきだと思います。スライド10に書いていますので、どうぞよろしくお願いします。
西尾委員長:
報告者の皆様、どうもありがとうございました。各委員はそれぞれの立場でオープンサイエンスに取り組んでいると思いますが、様々なステークホルダーが取組を進める中で、図書館にはどのような役割が求められているのか。NDLについては、国会、国民と科学技術情報をつなぐ、あるいは関係機関と連携強化を図ることによって、科学技術情報ひいては知識の社会的な循環を促進する役割があると私は思っています。ここからは議論の時間とします。何なりと御意見をお願いします。
戸山委員:
例えば文部科学省も複合領域に取り組むようになっていますが、NDLには日本の複合領域を発展させて新たなものを生む元となるデータを持っていてほしいと思います。つまり、資料や分析の機能をより広く提供すれば、大学や企業、そして国民から科学的なデータを納めてもらえるようになると期待されますが、それを文系や工学系の方、あるいは私のような医学系などの様々な人々が利用する元データとして持っていてほしいということです。ただ、以前喜連川委員が出した意見で私も同意見ですが、データを利用しようとしたときに、そのデータの信頼性を利用者が見て判断できるのかという問題があります。複合領域と言うときにも、実はデータを利用するところに一番難しい問題があると思います。とはいえ、どんどん予算を取って広げてほしいというのが、医学系の意見です。
竹内委員長代理:
データについては、今御指摘のあった質の問題がありますけれども、佐藤委員のスライド11にあったように、データに関わる商業出版社の活動が活発になりつつある中で、元データを国内に確保しオープンにしておくことがまず必要ではないかと思っています。藤垣委員のスライド5でも情報技術と出版システムについて歴史的にまとめられていましたが、歴史という観点からすると、情報技術についてではありませんが1950~60年代に学術出版が商業化したことをどうしても省くことができません。その流れの中で、特に2000年前後からの電子化に合わせて大手出版社による他出版社の買収によって出版の寡占化が起き、結果として特定の大手出版社に学術的なコンテンツが集中するという状況になりました。このような動きに対して、図書館界はオープンアクセスという対抗軸を打ち出してきましたが、残念ながら決定的な対抗にはなっていません。このような経緯を踏まえ、データに関しては論文と同じような状況になることを避けなければならないと思います。今日、我が国で生産された多くの研究成果が海外の出版社によって流通されていますが、データに関しては、海外の学協会などとの連携を維持しながらも国内にそれを置いておけるようにするための方策がまず必要です。
濵口委員:
この問題の一番の根源は、大学のマネジメントと研究者の側にあると思います。
まず、大学に所属している研究者の昇進がペーパーのサイテーション、つまりインパクトファクターでかなり決まってくるという傾向がこの20~30年で強くなっているという大きな問題があります。その一方で、かつては学協会の雑誌を大切にしていて、それにはサイテーションを超えるものがあったと記憶しているのですが、今は消えてしまっている。果たしてこれはリカバーできるのかという問題もあります。
次に研究者側の問題ですが、日本でオープンアクセスジャーナルを出したとして、どれだけの研究者が反応してくれるか、ポジティブにいかしてくれるか。科学技術振興機構でもサポートして、幾つかコストのかからないジャーナルを出しているのですが、残念ながら投稿やサイテーションが少ないという現状があります。つまり、研究者のマインドを変えていかなければいけないのですが、これは前述した大学側の評価システムをどう変えていくかという問題でもあって、なかなか根深いと思います。
村山委員:
サイテーションの問題については、ノンテキストの研究データの分野でどうやって業績化していくかということが国際的な議論になっています。私が所属しているAmerican Geophysical Unionでも、どうやってデータをカウンタブルにするかをテーマとする”The Make Data Count”などのプロジェクトに取り組んでいます。このように諸外国の学協会でこの問題に取り組んでいる勢力というのがありますので、日本でも大学や研究機関、学協会でそういった声を上げるのは重要なことだと思います。
同時に海外で進んでいるのは、メトリクス、つまり評価手法としての指標の研究です。濵口委員が言われたように、かつては学協会のジャーナルの査読という定性的な評価手法があったのが、数値化されて定量的な評価に代わってしまったと言えます。と同時に、客観性を得たという見方もできるのが難しいところです。一方で、海外で独自に評価指標の開発を進めるに当たって、彼らがやりやすいメトリクスにしてもおかしくない。日本はそれに対して、日本の研究にとっても有益な評価指標の開発へ貢献していく必要があるのではないでしょうか。
ここで、研究データの評価について、最近私の周りの若手研究者から問題だという声が挙がっている事例を御紹介します。地球全体の地理座標系の情報は世界的な枠組みによって作られていて、それゆえにGPSはグローバルサービスが可能なのですが、実はそれを作るために世界各国の関連機関が作業をしています。しかし、座標系の成果はリファーされるのに、各国の関連機関のデータはリファーされないので、各国の財政当局に「あなたたちのデータはどの程度役に立っているのかわからない。1個か2個減らしても問題ないのではないか」と言われるようになってきたと聞いています。つまり個々のソースデータ、源泉データの利活用までを可視化する必要性があるということです。
図書館も同じで、保存やアクセス保証が何の役に立っているのか分かりづらいという声を聞いたことがあります。特に日本を含むアジアの国々では、長期的にアーカイブすることが社会の基本として根付いていないがために、成果を可視化しないとアーカイブの重要性を忘れてその場の利用のしやすさによって資源配分がなされてしまうという危惧もあり得ます。これについては、我々自身が問題を提示して、アジアをリードしていくべきだと考えています。
西尾委員長:
我々にとって考えが抜けているところですね。何のためにアーカイブするのか、それがどのように我々を益することになっているのかという議論をしないまま、とにかくアーカイブを作っていこうということになっているかもしれません。
千原委員:
政府は統合イノベーション戦略によってオープンサイエンスのためのデータ基盤を整備することになったわけですけれども、これは大学の研究者や国立の研究機関といったところをサービス対象として想定していまして、一方NDLのサービス対象は国会議員であったり、国民であったり、その中には当然研究者も含まれるわけですけれども、更に幅広い方々であるわけです。したがって、政府が考えていることに加えて、NDLはデータの整備や提供について独自に、研究者ではない方にとっての使い勝手なども含めて考える必要があると思います。
佐藤委員:
先ほどの村山委員のコメントに関連しまして、一つ事例を御紹介したいと思います。
高エネルギー物理学の論文で、国際共同研究で著者が2,950人もいるものを見つけたことがありまして、36ページ中19ページ分が著者名と所属の記載だけで埋まっているのです。これをScopusとWeb of Scienceがそれぞれどういうふうに扱っているか確認したところ、Scopusでは2,950人全員をリストアップしていました。しかも著者と所属機関の対応を全て取り出して再現できるXMLデータが提供されていました。一方Web of Scienceでは、残念ながら、私が確認した限りではうまくデータが取れませんでした。
申し上げたいのは、ジャパンサーチでは、書籍、文化財、放送番組、地域アーカイブといった多様なコンテンツの著者あるいは作成者への言及はどのようになされるのかということです。今までの図書館の世界、つまり目録や雑誌記事索引では、単に資料を発見できればよいという程度の厳密さで済んできた部分がありまして、研究や業績の評価というところまでは含まれていませんでした。しかし将来的にはメタデータというものも、検索のためだけではなくて、もっと広い視野で作成していく必要があるということを、この事例で痛感した次第です。
村山委員:
今の問題は、天文学や素粒子物理学などのビッグサイエンスの領域では特に重大だと認識しています。例えば私の論文で一番サイテーションされているのは、私が観測したデータを使って、他国の研究者が、地球全体の大気モデルを作ってファーストオーサーになったものだと思います。私はデータを提供してそれを分析するアドバイスをした程度ですが、そのモデルをほかの研究者が使うときに私が共著者としてサイテーションされているわけです。少なくとも私のいる業界では、このような論文という形態を通して何とかデータに関する業績評価が行われるケースもありました。しかし今後、データだけを独立させてデータ業績としてカウントするようになれば、論文著者としてではなく、データの著者として業績にカウントされるようになればよいわけですね。そういう世界に今後移っていくのでしょうし、そのための新しい作法が次の世代に必要とされるのではないかと思っています。
西尾委員長:
藤垣委員の御報告で、図書館の役割として参加促進のためのネットワーキングや仕組み作りが挙げられていたのを印象深く思いました。私は以前、大型計算機センターのセンター長をやっていたのですが、センターができた頃は大にぎわいでした。なぜかというとパンチカードの作成などがそこでしかできなかったからです。その後、ネットワーク越しにジョブを入力できるようになって人がいなくなりましたが、私はスーパーコンピューターセンターが、例えば、産学連携のハブとして、いろいろな人が集まって課題を解決するような場としてにぎわってほしいと思っています。図書館もデジタルライブラリー化していってネットワーク越しにいろいろなことができるようになっていますが、やはりコミュニティやアクティブラーニングのための場として、いろいろな人が集まる場所に改めてならないだろうか、というところに興味があります。
竹内委員長代理:
例えば公共図書館については、サードプレイス論の立場からの議論があって、そこに様々なバックグラウンドを持つ人々が集まって様々な議論を行って何か新しい知を生み出すということをやっています。また大学図書館では、ラーニングコモンズの設置というのがここ7、8年のトレンドとしてありました。その次のステップとして、アジア・オセアニアの強い研究大学では、リサーチコモンズという考え方が導入されて、多様な人が集まることによる研究面でのシナジー効果の発揮と、学部や大学院を超えて共通のアカデミックスキルのかん養が期待されているように思います。
ただ、そういう場をNDLが持つのはなかなか難しいだろうなというのが正直なところでして、やはりNDLにはNDLの役割があるのではないかと私は思っています。NDLが保有しているデジタル化された資料をきちんと提供していけるようにすることがやはり大きいのではないでしょうか。大学の立場で言えばNDLのデジタル化送信サービスは、受け手の図書館の中だけではなくて、大学の中全体で使えるようになってほしいと個人的には思っています。しかし、デジタル化の次のステップを考えたときに、バーチャルな場だけでの議論はおそらく難しいでしょうから、西尾委員長が言われたような、人が集まる場、モデレーターを介して多様なデータあるいはデジタル化されたコンテンツを生かす場が、どうしても必要になってくるのではないかと思います。
濵口委員:
大学の研究がどんどん巨大化して高価な機械が入ってくるようになって、マスタークラスの大学院生でさえそれを使いこなせないことがあるわけです。巨大な情報が動き始めた今こそ、それを様々なユーザーが理解できるように提供する専門家が必要な時代だと思います。そのための人材育成が必要です。そうでなければ膨大な情報が目の前に浮かんでいるだけです。
キャンベル委員:
人文科学の立場からの意見として、市民、国民、あるいはグローバルな視点で、エビデンスのある確実な情報提供をしながら、それを使って協働していくというところに、NDLの大きな役割があるのではないかと思います。
先ほどオープンアクセスジャーナルの話がありましたが、それについて日本の人文、社会科学、特に人文科学はかなり立ち遅れていると言わざるを得ません。一つには学会そのものが細分化されていて、属人的、属分野的な性格が強いということがあります。それはもちろん良い結果も生むわけですけれども、濵口委員が言われたように、オープンアクセスジャーナルを作ってもなかなか投稿がない、結局同人誌のようなもので人々が集まってこない。国文学研究資料館は2年後に英語のオープンアクセスジャーナルを出そうと企画しているのですが、そのジャーナルをどういうふうに共有、発信していくかを考えた時に、例えば”Directory of Open Access Journals (DOAJ)”というものがありますが、オープンアクセスジャーナルを査定して一種のクリアリングハウスとして機能すると同時に、オープンサイエンスについて語り合う場でもあり、様々なシンポジウムをやったりコンソーシアムを作ったりもしています。つまりポータル機能だけでなく、キュレーションや認証の機能も持っているわけです。日本の人文科学において、私はもっと認証や査読のシステムをクリアにしなければいけないと思っています。例えばダブルブラインドピアレビューは決して定着しておらず、それぞれの大学やグループの中のヒエラルキーに従って投稿や査読がなされるということがまだあります。海外ですとテニュアを既に取得している教員とそれ以前の教員では全く状況が異なっていまして、例えばテニュア未満の教員に雑誌に投稿してもらうとすると、いつ発信されるのかであるとか、どういう過程を経て受理されたのかというレビューを含めて明確にしないと、投稿すること自体がキャリアに関わるほど危険な行為になってしまうのです。日本の若手研究者の状況はまだそこまで行っていませんが、ジャーナルを出すに当たってはやはりそういう意識を持っておく必要があります。例えばオープンアクセスジャーナルのコンソーシアムを作るに当たって、NDLが直接音頭を取ることは難しいかもしれませんが、必要な情報を提供する、あるいはワーキンググループの呼びかけをする、これはおそらく任意団体になると思いますが、そういった形で関わるということはあり得るでしょう。
今たまたま、”The New York Times”の首席書評者だったミチコ・カクタニ(Michiko Kakutani)さんの”The Death of Truth”という本を持ってきています。先週アメリカで出版されたものですが、エビデンスがあって検証可能な情報であるということの公共的な価値が、我々にとっては当たり前のことですけれども、揺らいでいるというのです。そのことは、欧米に比べると日本ではまだ、ポピュリズム、分裂、人口移動といった実社会の中の大きな問題に直結していないのかもしれませんが、私たちは間違いなくこのグローバルな気流の中にいるわけでして、NDLがエビデンスベースで、安心できる、協働できる、共生できる社会をどういうふうに作っていくのかということ、それ自体を見せる意味があると私は思っています。
西尾委員長:
佐藤委員からの問題提起にもあったように、関係者間の競争が激しくなっている中で、図書館に求められることも変わってきていますが、NDLの対応として協働という点についてはいかがでしょう。
藤垣委員:
キャンベル委員はオープンジャーナルのコンソーシアムという言い方をされましたが、NDLと学協会あるいは大学の研究者が、何らかの形で協力するということは考えられるかもしれません。ほかにも、例えば日本学術会議もその種の問題意識を持っていて、NDLの科学技術に関する調査プロジェクトと似た報告書を出していたりもするので、いろいろなところの成果物をNDLがハブとして持つ、というイメージでしょうか。
西尾委員長:
先ほど濵口委員から、SDGsに関連して、社会的課題を解決するために異分野融合を進めていく動きが出てきているという御報告がありましたが、異分野を融合させるに当たって、これは口で言うのは易しいのですが、一番パワフルな手段はやはりデータなのですよね。そのデータを扱う中心的な機関として、ますますNDLの役割が大きくなっていくと考えられます。その場合に単なるデータではなくて、ナレッジあるいはウィズダムにまで発展させたものをどう提供するかという問題を提示されたのだと思っています。
濵口委員:
少し視点を変えまして、ノーベル賞受賞者のオリジナル論文を見ると、私の知っている方々に共通しているのは、最初は名もない日本の英文誌に出しているということです。学会報告のアブストラクトがノーベル賞受賞やイノベーションにつながった例もあります。世の中をがらりと変える、サステナビリティを実現するヒントというのは、最初は誰も信じないので有名誌に送るとリジェクトされるだけですから、どこでもよいので通してくれるところへ出すわけです。私たちファンディングエージェンシーの一番の悩みはその浜の真砂の中からきらりと光るダイヤモンドをどうやって探すのかということですが、一方でその浜の広がりを一番カバーしているのはNDLだと思います。
このダイヤモンドを見出すツールをどう開発するのか。そのためには引用件数を見ても駄目で、インパクトが伸びる立ち上がりの部分をどうやって引っかけるかが重要です。更にはそのインパクトに社会がどう反応しているのかも合わせて見えるようなマルティプルな検索を可能にするメタ解析ができなければいけません。単にサイテーションを拾ったりトピックスを追ったりしても、もう何も出てこないと思います。
村山委員:
もう一度データの話をしますと、私自身が国際会議等で最近目にしているのは、欧米で名誉教授クラスの有識者がワーキンググループを作って、研究データのデータファイルを共有しようというのではなくて、データの中身を全く違う分野の人がすぐ読めるようにしようという取組をしている姿です。その中では、セマンティックなデータ処理手法、ツールを普遍化した上で世界規模のデータディレクトリつまりカタログ化して全分野で扱えるようにしようという議論です。
そのために意欲的になされている例の一つが、情報工学者と図書館員とのチームを組んだ取組です。両者は全く違うカルチャーを持っています。図書館員は手作業でメタデータつまり書誌を整えてきましたが、あの整え方をIT基盤の上でどう実現するかというのは、我々の視点には無かったものです。つまり100年越しの情報を保存する図書館と、3年や5年で全く変わってしまうITが合わさって、どうやって社会基盤としての知識をいつでも使えるようにするかという問題です。
また、例えばメールの添付ファイルをダブルクリックすると自動的に読めるのはレジストリがデータとアプリケーションのつながりを全部見ているからですけれども、データを誰にでも扱えるように、地震データだったらこのアプリケーション、健康データだったらこのアプリケーションというように、世界全体のマスターディレクトリを作ろうという計画もあります。そういうものに日本人も参加すると、浜の真砂をダブルクリックして研究に使える知識が発見できる可能性を高めるでしょう。
イノベーションについてよく言われるのは、結局のところ、どこかを狙って集中すればイノベーションが起こるというものではなくて、ランダムプロセスの中でたまたま当たるものの方が多いということです。だからこそ、誰にでも発見可能な知識ベースを作るというところにオープンサイエンスの本質があるわけです。そのためには図書館業界だけでもない、IT業界だけでもない、これまでとは違う世界を作らなければいけませんし、それによって我々の仕事自体も破壊的な影響を受ける可能性はありますが、そういったチャレンジを無視できない世界になりつつあると思います。
西尾委員長:
先日、内閣府の会議に参加しましたときに、データの標準化の問題、あるいはデータの権利の問題等が課題として挙げられていて、国できちんと対処すると書いてあったのですが、国のどこがやるかについては書かれていませんでした。現状としては、例えば医療データなどでもフォーマットが統一されていない状態です。また、データの権利などに関する国の方針が明確にならないと、現場サイドではデータの提供を求められた場合の対応が難しく、そうこうしているうちに国内の大量のデータが国外に流出してしまう恐れもあります。今のうちに国が対策を打たないと、そうなってしまった後では取り返しがつきません。この問題については、NDL、JSTとしても国の関連機関として、どうかよろしくお願いします。
8. 閉会
西尾委員長:
いろいろ貴重な御意見をいただけたことに関しまして、心より御礼申し上げます。誠にありがとうございました。
(事務局から事務連絡)
(閉会)
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