平成20年度の調査研究の内容
平成20年度は電子情報の長期利用保証をテーマに、旧式化したアナログ形式の録音・映像資料及びフロッピーディスク(FD)を対象に調査研究を行いました。
(1)旧式録音・映像資料のデジタル化に関する調査
当館が所蔵する録音・映像資料16点を用いてデジタル化を試行し、品質を重視した「保存用」と利便性を重視した「提供用」の2種類の用途にそれぞれ応じたデジタル化の条件(ファイルフォーマット、サンプリング周波数、ビットレート等)を比較調査しました。
録音資料
以下の規格について、各2点、計4点を対象としました。
- カセットテープ
- オープンリールテープ
各資料について、計24種類のデジタルファイルを作成しました。まず、保存を目的とした6通りの条件でファイルを6点ずつ作成しました。次に、できあがった保存用ファイル6点それぞれについて、3通りの条件でデジタル化し、提供用ファイルを18点ずつ作成しました。そして、各ファイルについて、音質やファイルサイズ、変換作業にかかる時間等を比較調査しました。各デジタル化の条件は表1の通りです。
ファイル種別 | ファイル フォーマット (拡張子) |
サンプリング 周波数 |
ビット深度 | ビットレート |
---|---|---|---|---|
保存用ファイル (6種類) |
WAV(.wav) | 48kHz | 16bit | − |
96kHz | 24bit | − | ||
192kHz | 24bit | − | ||
AIFF(.aif) | 48kHz | 16bit | − | |
96kHz | 24bit | − | ||
192kHz | 24bit | − | ||
提供用ファイル (3種類) |
MP3(.mp3) | − | − | 128kbps |
− | − | 320kbps | ||
WMA(.wma) | − | − | 128kbps |
映像資料
以下の規格について、各2点、計12点を対象としました。
- VHS(Video Home System)ビデオ
- ベータ規格
- U規格(U-matic)
- レーザーディスク
- VHD(Video High Density Disc)
- 映像フィルム(8mm、16mm)
各資料について、計24種類のデジタルファイルを作成しました。まず、アナログの映像信号をデジタル信号へ変換した後、そこからデジタル化の条件を変えた6種類の保存用ファイルを作成しました。提供用ファイルは、録音資料と同様に、各資料の保存用ファイル6点それぞれについて、3種類の条件で変換し、計18点作成しました。各デジタル化の条件は表2の通りです。
ファイル種別 | 映像フォーマット | コンテナ(拡張子) | ビットレート | レートコントロール | 音声フォーマット |
---|---|---|---|---|---|
保存用ファイル (6種類) |
MPEG-2 | MPEG-2 PS (.mpg) |
9Mbps | CBR | LinearPCM |
9Mbps | VBR | ||||
50Mbps | VBR | ||||
MPEG-4 AVC | Matroska (.mkv) |
9Mbps | CBR | ||
9Mbps | VBR | ||||
50Mbps | VBR | ||||
提供用ファイル (3種類) |
Flash Video On2 VP6 | Flash Video (.flv) |
300kbps | CBR | MP3 |
MPEG-4 AVC | MPEG-4 AVC (.mp4) |
300kbps | AAC | ||
Windows Media Video | Windows Media (.wmv) |
300kbps | WMA |
調査の結果、課題として浮かび上がってきたのは、全ての資料に対して一意の最適な条件を決定するのは難しく、原資料の内容や状態といった物理的な要素、デジタル化にかけられるコスト等の財政的な要素等のバランスを改めて検討した上で、デジタル化したデータにどの程度の品質を求めるかという組織の方針を決定する必要があるということでした。
詳細な調査結果は、「平成20年度電子情報の長期利用保証に関する調査(1)旧式録音・映像資料のデジタル化に関する調査 調査報告書」(平成21年3月)をご覧ください。
(2)5.25インチフロッピーディスクのマイグレーション試行調査
当館では、平成18年度からフロッピーディスク(FD)のマイグレーションに関する調査を継続的に実施しています[平成18年度調査][平成19年度調査]。とりわけ、5.25インチFDは、媒体の経年劣化が進んでいること、平成13年に生産が終了し規格の旧式化が著しいこと、そして再生機器の入手が困難であること等の理由から、長期的に保存するためには早急に対策が必要です。そこで平成20年度は、より大規模に当館が所蔵する5.25インチFDのうちの767枚を対象にマイグレーションを試行しました。
マイグレーションの試行は2段階に分けて実施しました。まず、専用の機器を用いて5.25インチFDから3.5インチFDへデータを移行しました。次に、移行が成功した3.5インチFDの中身(データ)を一つにまとめたイメージファイルへ変換し、ハードディスクに保存しました。2段階で実施したのは、5.25インチのFDを直接読み取ることのできる機器の入手が難しく、また対応する外付けのハードディスクドライブの製造が既に終了しているため、対応する機器が入手しやすい3.5インチのFDへ予め変換する必要があったためです。
試行調査の結果、767枚のうち660枚については、マイグレーションが成功しました。
上記以外の活動
英国のDCC (Digital Curation Centre) とDPE (Digital Preservation Europe) が共同で開発したデジタルリポジトリ事業の監査ツールDRAMBORA (Digital Repository Audit Method Based on Risk Assessment) を用いて、当館の電子図書館サービスの試験評価を実施しました。試験評価の詳細は、「電子情報長期保存のための評価ツールDRAMBORA −NDLにおける試験評価の試みから」をご覧ください。
「リスク評価に基づくデジタルリポジトリ監査法 : 公開試験と意見募集用草案」第1.0版(草案)
DRAMBORA (Digital Repository Audit Method Based on Risk Assessment) ver.1.0 の日本語版