2025年1月6日 新年のご挨拶
謹んで新年のお慶びを申し上げます。本年が皆さまにとって良い年となりますようお祈り申し上げます。
昨年4月に国立国会図書館長に就任し、早いもので9か月が過ぎました。図書館情報学分野の研究者として、国立国会図書館の活動や役割は理解しているつもりでおりましたが、実際に館長になってその日々の活動に接してみますと、その活動の幅広さ、多様さに改めて驚かされております。
「国立国会図書館ビジョン2021‐2025―国立国会図書館のデジタルシフト―」は今年4月から最終年度に入ります。このビジョンでは7つの重点目標、4つの基本的役割を掲げてきましたが、特にビジョンのタイトルにもあります「デジタルシフト」については大きな成果をあげつつあります。令和2年度以来毎年度の補正予算により、当初の「5年間で100万冊以上の所蔵資料のデジタル化」という目標は既に大きく超え、1969年から2000年までに受け入れた国内刊行図書のデジタル化点数は、今年度中には累計で145万冊に達する見込みです。令和6年11月時点で、当館のデジタル化資料423万点のうち、インターネットで公開中の資料は64万点、デジタル化資料送信サービスを通じて提供可能な資料は203万点にまで拡大いたしました。
「デジタルシフト」は、紙の出版物のデジタル化だけを指しているわけではありません。資料は探し出せなければ利用できませんので、当館をはじめ他の図書館等でも、所蔵資料には著者名、書名、出版社名などのメタデータを付与して検索できるようにしてきました。昨年1月にリニューアルした統合的な資料検索システム「国立国会図書館サーチ(NDLサーチ)」では、当館のメタデータだけでなく、他の機関が作成しているメタデータもまとめて検索でき、紙の出版物を探すだけでなく、様々なデジタルコンテンツへのアクセスも可能です。
OCR処理による全文テキスト化も進めており、国立国会図書館デジタルコレクションでは、約300万点のデジタル化資料の全文検索が可能となっています。また、全文検索でヒットした検索語の位置を画像上にピンで表示することで、探したい情報をすぐに見つけられるようにする仕組みも導入しました。
このように、「デジタルシフト」を進めることで、より多くの資料に関して便利に利用していただける状況を構築しつつあるのではないかと考えております。出版社、著者の皆さま、連携協力していただいている機関の皆さまをはじめとして、ご理解、ご協力をいただいた方々に御礼申し上げます。今年は、この現在のビジョンでの活動を総括したうえで、次期ビジョンに向けての検討を本格化させていく時期となります。
「デジタルシフト」の次のビジョンをどう考えていけばいいかはチャレンジングな課題です。その一助とすべく、当館と似た機能を持つ米国議会図書館の首席副館長J・マーク・スウィーニー氏を迎えてシンポジウム「デジタルシフトの次へ―米国議会図書館の新戦略から見えてくるもの―」を昨年9月に開催いたしました。スウィーニー氏には米国議会図書館の戦略計画について基調講演を行っていただくとともに、一橋大学大学院教授の只野雅人氏、情報・システム研究機構長の喜連川優氏、国士舘大学特任教授の溝上智恵子氏にパネリストとして加わっていただき、国立国会図書館の果たすべき役割についてパネルディスカッションも行いました。
知識とは、人間の身体も含めた広い意味の認知活動の結果生み出されたもので、何らかの制度、システムによって社会の人々に流通し、社会活動と次の知的生産活動の源となるものです。現在、その知識の表現形式、流通制度ともに大きな変化を迎えています。国立国会図書館の基本的な役割とは、伝統的な紙の出版物とデジタルで生み出され流通する多様な情報とを統合した知の基盤を最大限活用して国会活動を補佐するとともに、より多くの人々にその基盤を利用していただくことを通じて、豊かな社会の形成に貢献していくことであろうと思います。この基本的な役割は変わりませんが、それを実現するための方法にまだ正解はありません。次期ビジョンの策定も含め、これからも国立国会図書館としての役割を果たすべく模索を続けてまいりたいと思います。
令和7年1月
国立国会図書館長 倉田敬子