野田良治領事 「各自一人づつを呼寄せよ」 『伯剌西爾時報』 大正8年8月31日
各自一人づつを呼寄せよ
総領事代理 領事 野田良治
『伯剌西爾時報』 大正8年8月31日
在リオ帝国公使館二等書記官野田良治氏は去月松村総領事の後任として当地帝国総領事館へ転任せられ一と通り事務の整理をつけられたるを窺ひたる記者は一日移民問題に関する氏の意見を聞くべく総領事館を訪ひしに氏は謙遜なる句調を以て今後同胞渡伯の奨励法として呼寄せ方法をとるの最も近道なりとて自己の所信を吐露せられたれば茲に之を掲載して読者諸君の奮起決行を促がすこととせり(一記者)
伯剌西爾移民組合が昨年は九千人の日本移民を誘入すべき義務を負ひながら僅かに六千人しか募集することが出来ず、今年も亦九千人の註文に対して今日迄に漸く千五六百名を誘入したに過ぎないと云ふのは甚だ残念なことではないか
日本からの情報に依れば、我が帝国は土地が狭い上に毎年人間が殖えて困る困ると云ひながらも、一般に景気が好い為めに渡航希望者が少ないのだとも云ひ、又着伯後成績が良くて金のドシドシ儲かる移民は一向手紙を出さず、却つて比較的不仕合な成績の悪い移民からは盛んに苦情や不平や、泣言を並べた手紙を書いて出すから、それで応募者が少ないのだとも云ふ
どちらにしても之は甚だ残念なことで、こんな調子では珈琲園主や州政府は日本移民は宛にならぬから支那移民なり欧羅巴移民なりを奨励し日本移民の誘入は止めにすると云ふ事に何時風向きが変らぬとも限らない[、]そこで在伯同胞は此際大に覚悟し、且つ大に奮発せねばならぬ、伯剌西爾に於ける日本人の勢力を大にし、且つ共同事業を営む上に於て、或は学校、医師等の設備に関して各自の便宜を得やうと思ふならば、先づ第一に在留同胞の数を増す工夫をせねばならぬ、多数の同胞を伯剌西爾に渡航させる努力は独り移民組合のみに委せて置くべきものではない、在留邦人一同力を併せて移民組合を助け移民募集を容易ならしむる事は正しく各自の分担すべき任務であらう[、]そこで現在の在留者三万有余が各自必ず一人づつは呼寄せるといふ覚悟を定めたならば、現在の三万は遠からず六万人となるではないか、その六万が更に同様の決心をしたならば伯国在留邦人の数は忽ち十二万となるではないか
之を要するに、在留邦人は各自その資格に応じて平均一人に付き必ず一人づつの親戚又は知己朋友を呼寄せねばならぬ義務があると覚悟して、伯国の有望なることを手紙に認めて盛んに郷里に通信して貰ひたい、而して単に呼寄せるといふ丈けでは渡航の出来ぬ人もあらうから、成るべく渡航費の全部或は少なくとも其一部を送金して呼寄せを実行して貰ひ度い、移民組合の勧誘は言はば、後方から押すのである、在留同胞の勧誘は綱をつけて前から引張るのである、政府の援助は道に油を引くのである、この三拍子が揃へば、日本人の伯国移住者は大に其の数を増し、在留邦人の勢力は益々発展することと信ずる。