史料にみる日本の近代 -開国から戦後政治までの軌跡-

[伊藤博文手記 外遊日記]

[伊藤博文手記 外遊日記]

※ 5コマ9行め~11コマ14行めのみテキスト化しました。



政体及ひ政府
現今孛国の政体は、王フレデレッキウィレム第四世在位中千八百四十九年間八月十二月両度の政体会議に於て創立し、千八百五十年正月三十一日之を公告せる者なり。然れとも其後数度の改革ありたり。則ち同五十一年四月三十日、同二年五月二十一日、六月五日、同三年五月七日、二十四日、同五十四年六月十日、五十五年五月三十日、五十六年四月十四日、三十日、五十七年五月十八日、六十七年五月十七日、然而此等の根本立法に於て、十八才以上の齢に至り衆望ありて王位に昇り、行政を委ね、立法の分権をも王権に属するなり。
王位は積世にして、男子而已に伝へ、王家の子孫嫡子兄弟の順序に従ふ。
政府の施治に於ては、国王の詔命を以て登庸せらるる各宰相を以て王を輔佐す。
立法の権は王両院を以成創せる名代人の会議と、之を共にす。其一院はヘレンハウス、則上院にして、其二院はアヘシヲルトニテンハウス、則名代人の会集なり。
国王及ひ両院の承諾を得て国法と定む。
会計に関係せる仕法書、又は会計書等は、最初下院に出すへし。而して之を取捨する上院に至て決すべし。
法を立ん事を企つとの権は、国王と両院とに在るべし。
国法の企書、一度も両院の一又は国王より返却せられたる企書を、同時の会議中に再ひ持出す事能はす。
上院の創立は、政体の原稿に拠れは、王族の王子等にて成年に至りたる者と、昔時の一統中より連綿せる孛家の当主等、及ひ王族より伝来せる家族にて嫡子又は血統を以て相続せる当主等は、議院に於て席を占め、言を出す事を命せらるべし。
又此積世家の人員外に各郡より直に撰挙せられたる名代人九十人にして、撰挙人は其州に於て尤多く収税する者なり。之に加るに又三十人の議員あり。之は毎大市府の地方コンシイルの人員等に依て撰挙せらる。此上院根元の創立は千八百五十四年十月十二日の王命を以て改革する事多く、而して上院現今存在せる体裁に至れり。
十四日午後第二字半より、博物館を一覧す。
現今上院の体裁は、第一王族中の成年に及ひたる諸王子、加るに昔時の王家にて、ホーヘンゾーレン、ヘチンゼン、及ひホーヘンゾーレンシクマリンゼン家の子孫を込む第二王侯中間の家系を連続せる諸家の党首にて、嘗て澳国ビヘナの会議に於て証認せられたる者。其数は孛国中に於〔欄外注:国王より置れたる〕て十六家なり。第三。国土を有する貴族等、其数は五十人なり。第四、富貴なる地主、盛大なる製造主、及ひ国中有名家にて存在せるピール国王の撰に依て出する者なり。第五、孛国八州に於て八級の貴族等、其他に居住する地所持等、大小の別なく之を撰ふなり。第六、大学校の名代人等、チャピタルの頭等、五万人以上の人口を有する都府の支配人等。第七、王命を以て無限の人員を生涯の撰挙を為し、又は多少の年数長知ある事あるべし。
下院は四百三十二人の数を以て集合し、内三百五十二人は旧時の国境界中より撰ひ、余は千八百六十七年新に加ふる所の州郡より撰挙せり。各孛国人、其齢二十五才の満期に至り、其地方に於て地方官員を撰挙する品格あれは、選挙人を撰ふの権理あるべし。
人民等、各種の教社に於て地方官を選挙すへき許されたる権理を施行するは、唯撰挙人を入札する而已に限るべし。
一員の選挙人を撰ふは、二百五十人の定員より撰ぶべし。
撰挙人を撰ふべき人々は、三級に分つべし。其方は、各人より直税を収納する高の分部に応すべし。其仕法は、各区毎に全高に課したる直税全数の三分一を払ふ者、故に第一区は全高の三分一の高にて尤高税を収むる人々の撰挙人等を以て成立すべし。第二には、其次の高税を三分一より収むる人々なり。第三には之に次く税高より尤少税を収むる人々をも合計して成立つ所の者なり。各級数箇の撰挙社中に分割する事を得べし。然れとも其仲間は五百人より以上に上るべからず。此仲間の人々、撰挙人を撰ふの権ある人員なれは、各社中に於て撰挙人等を各指する事を得べし。勿論彼是の仲間に限る事なかるべし。
議院に出する名代人等は右の選挙人等より撰挙せらるべし。
名代人の年限は三年を以て定限とすべし。各孛国人等は年齢三十才に満ち法律上に於て民権を全く保存し欠缺する所なく、且其州郡に於て三年間収税を怠らさる者は、下院の員別となるべき権利あるべし。
院員の再撰に膺る者は、其年の満期に及ふ前六ヶ月以内に再撰せらるる乎又は一旦退院の後たるべき乎なり。両条の場合に於て、再撰員別たるべき権理あるべし。
議院は規則通り毎年十一月中、国王より会集する事を命すべし。
議院開閉の時は、国王親臨する乎、又は王命を以て命したる宰相一人、之に臨んて、其式を行ふ乎、両条の内たるべし。
両院共々会集開閉又は延期とも同時に取行ふべし。
各院毎々其議員の人品を証し、且之を決定すべし。
両院共々事務の順序を整へ、且厳正なるべし。而して議長副議長、書記官をも撰詮すべし。開院就職中、欠員外出するを許さす。
議官たる者、何時にても給料を得へき職掌に就き、又は給料の増加すへき高職の為めに、議院の占席を及ひ出言を欠ぎたるは唯次の新撰に依て復する事を得へき而巳。
一人にして両院の員に列する事を禁す。
両院に於て占席は公然たるべし。

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