40部ノ内第32号
日本国憲法
我等日本国人民ハ、国民議会ニ於ケル正当ニ選挙セラレタル我等ノ代表者ヲ通シテ行動シ、我等自身及我等ノ子孫ノ為ニ諸国民トノ平和的協力ノ成果及此ノ国全土ニ及フ自由ノ祝福ヲ確保スヘク決心シ、且政府ノ行為ニ依リ再ヒ戦争ノ惨禍ニ訪レラレサルヘク決意シ、茲ニ人民ノ意思ノ主権ヲ宣言シ、国政ハ其ノ権能ハ人民ヨリ承ケ其ノ権力ハ人民ノ代表者ニ依リ行使セラレ而シテ其ノ利益ハ人民ニ依リ享有セラルルヘキ神聖ナル信託ナリトノ普遍的原則ヲ基礎トセル此ノ憲法ヲ制定確立ス、而シテ我等ハ此ノ憲法ト抵触スル一切ノ憲法、法律、命令及詔勅ヲ排斥及廃止ス
我等ハ永世ニ亘リ平和ヲ希求シ且今ヤ人類ヲ揺リ動カシツツアル人間関係支配ノ崇高ナル理念ヲ満全ニ自覚シテ、我等ノ安全及生存ヲ維持スル為世界ノ平和愛好諸国民ノ正義ト信義トニ信倚センコトヲ決意セリ、我等ハ平和ノ維持並ニ横暴、奴隷化、圧制及頑迷ヲ永遠ニ地上ヨリ追放スルコトヲ主義方針トスル国際社会内ニ名誉ノ地位ヲ占メンコトヲ欲求ス、我等ハ万国民等シク恐怖ト欠乏ニ虐ケラルル憂ナク平和ノ裏ニ生存スル権利ヲ有スルコトヲ承認シ且之ヲ闡明ス
我等ハ如何ナル国民モ単ニ自己ニ対シテノミ責任ヲ有スルニアラスシテ政治道徳ノ法則ハ普遍的ナリト信ス、而シテ斯ノ如キ法則ヲ遵奉スルコトハ自己ノ主権ヲ維持シ他国民トノ主権ニ基ク関係ヲ正義付ケントスル諸国民ノ義務ナリト信ス
我等日本国人民ハ我等ノ国民的名誉、決意及総力ヲ賭シ誓ツテ此等ノ高遠ナル主義及目的ヲ達成セントス
40部ノ内第32号
日本国憲法
第一章 天皇
第一条 天皇ハ日本国民至高ノ総意ニ基キ日本国ノ象徴及日本国民統合ノ標章タルベシ。
第二条 皇位ハ国会ノ議決ヲ経タル皇室典範ノ定ムル所ニ依リ世襲シテ之ヲ継承ス。
第三条 天皇ノ国事ニ関スル一切ノ行為ハ内閣ノ輔弼賛同ニ依ルコトヲ要ス。内閣ハ之ニ付其ノ責ニ任ズ。
第四条 天皇ハ此ノ憲法ノ定ムル国務ニ限リ之ヲ行フ。政治ニ関スル権能ハ之ヲ有スルコトナシ。
天皇ハ法律ノ定ムル所ニ依リ其ノ権能ヲ委任シテ行使セシムルコトヲ得。
第五条 皇室典範ノ定ムル所ニ依リ摂政ヲ置クトキハ摂政ハ天皇ノ名ニ於テ国務ヲ行フ。此ノ場合ニ於テハ前条第一項ノ規定ヲ準用ス。
第六条 天皇ハ国会ノ指名ニ基キ内閣総理大臣ヲ任命ス。
第七条 天皇ハ内閣ノ輔弼賛同ニ依リテノミ国民ノ為ニ左ノ国務ヲ行フ。
一 憲法改正、法律、閣令及条約ノ公布
二 国会ノ召集
三 衆議院ノ解散
四 国会議員ノ総選挙ヲ行フベキ旨ノ宣布
五 国務大臣、大使及法律ノ定ムル所ニ依ル其ノ他ノ官吏ノ任免ノ認証
六 大赦、特赦、減刑、刑ノ執行ノ停止及復権ノ認証
七 栄典ノ授与
八 外国ノ大使及公使ノ引接
九 式典ノ挙行
第八条 皇室ニ対シ又ハ皇室ヨリスル財産ノ授受及収支ハ国会ノ議決ナクシテ之ヲ為スコトヲ得ズ。
第二章 戦争ノ放棄
第九条 国家ノ主権ニ於テ行フ戦争及武力ノ威嚇又ハ行使ヲ他国トノ間ノ争議ノ解決ノ具トスルコトハ永久ニ之ヲ放棄ス。
陸海空軍其ノ他ノ戦力ノ保持ハ之ヲ許サス。国ノ交戦権ハ之ヲ認メズ。
第三章 国民ノ権利及義務
第十条 国民ハ凡テノ基本的人権ノ享有ヲ妨ゲラルルコトナシ。
此ノ憲法ノ保障スル国民ノ基本的人権ハ、永遠ニ亙ル不可侵ノ権利トシテ現在及将来ノ国民ニ賦与セラルベシ。
第十一条 此ノ憲法ノ保障スル自由及権利ノ享有ハ国民ノ不断ノ監視ニ依リテ保持セラルベク、国民ハ其ノ自由及権利ノ濫用ヲ自制シ常ニ公共ノ福祉ノ為ニ之ヲ利用スルノ義務ヲ負フ。
第十二条 凡テノ国民ハ個人トシテ尊重セラルベク、其ノ生命、自由及幸福ノ追求ニ対スル権利ハ公共ノ福祉ニ牴触セザル限立法其ノ他諸般ノ国政ノ上ニ於テ重大ノ考慮ヲ払ハルベシ。
第十三条 凡テノ自然人ハ其ノ日本国民タルト否トヲ問ハズ法律ノ下ニ平等ニシテ、人種、信条、性別、社会上ノ身分若ハ門閥又ハ国籍ニ依リ政治上、経済上又ハ社会上ノ関係ニ於テ差別セラルルコトナシ。
爾今何人モ貴族タルノ故ヲ以テ国又ハ地方ノ如何ナル政治的権力ヲモ有スルコト無カルヘシ。華族ハ現存ノ者ノ生存中ヲ限リ之ヲ廃止ス栄誉、勲章又ハ其ノ他ノ優遇ノ授与ニハ何等ノ特権モ附随セサルヘシ又右ノ授与ハ現ニ之ヲ有スル又ハ将来之ヲ受クル個人ノ生存中ヲ限リ其ノ効力ヲ失フヘシ
第十四条 国民ハ其ノ公務員ヲ選定及罷免スル不可議ノ権利ヲ有ス
一切ノ公務員ハ全社会ノ奴僕ニシテ如何ナル団体ノ奴僕ニモアラス有ラユル選挙ニ於テ投票ノ秘密ハ不可侵ニ保タルヘシ選挙人ハ其ノ選択ニ関シ公的ニモ私的ニモ責ヲ問ハルルコト無カルヘシ
第十五条 何人モ損害又ハ其ノ他ノ救済、公務員ノ罷免及法律、命令又ハ規則ノ制定、廃止又ハ改正ニ関シ平穏ニ請願ヲ為ス権利ヲ有ス又何人モ右ノ如キ請願ヲ主唱シタルコトノ為ニ如何ナル差別的待遇ヲモ受クルコト無カルヘシ
第十六条 何人モ如何ナル種類ノ奴隷役務ニ服セシメラルルコト無カルヘシ犯罪ノ為ノ処罰ヲ除クノ外本人ノ意思ニ反スル服役ハ之ヲ禁ス
第十七条 思想及良心ノ自由ハ不可侵タルヘシ
第十八条 宗教ノ自由ハ何人ニモ保障セラル如何ナル宗教団体モ国家ヨリ特別ノ特権ヲ受クルコト無カルヘク又政治上ノ権限ヲ行使スルコト無カルヘシ
何人モ宗教的ノ行為、祝典、式典又ハ行事ニ参加スルコトヲ強制セラレサルヘシ
国家及其ノ機関ハ宗教教育又ハ其ノ他如何ナル宗教的活動ヲモ為スヘカラス
第十九条 集会、結社、言論及定期刊行物並ニ其ノ他一切ノ表現形式ノ自由ヲ保障ス検閲ハ之ヲ禁シ通信手段ノ秘密ハ之ヲ侵ス可カラス
第二十条 凡テノ国民ハ公共ノ福祉ニ牴触セザル限ニ於テ居住、移転及生業選択ノ自由ヲ有ス。
国民ハ外国ニ移住シ又ハ国籍ヲ離脱スルノ自由ヲ侵サルルコトナシ。
第二十一条 凡テノ国民ハ研学ノ自由ヲ侵サルルコトナシ。
第二十二条 婚姻ハ男女相互ノ合意ニ基キテノミ成立シ、且夫婦ガ同等ノ権利ヲ有スルコトヲ基本トシ相互ノ協力ニ依リ維持セラルベキモノトス。
配偶ノ選択、財産権、相続、住所ノ選定、離婚並ニ婚姻及家族ニ関スル其ノ他ノ事項ニ関シ個人ノ威厳及両性ノ本質的平等ニ立脚セル法律ヲ制定スヘシ。
第二十三条 有ラユル生活範囲ニ於テ法律ハ社会的福祉、公共衛生、社会的安寧、自由、正義及民主主義ノ向上発展ノ為ニ立案セラルヘシ。
第二十四条 凡テノ国民ハ法律ノ定ムル所ニ依リ其ノ能力ニ応ジ均シク教育ヲ受クルノ権利ヲ有ス。
凡テノ国民ハ其ノ保護スル児童ヲシテ普通教育ヲ受ケシムルノ義務ヲ負フ。其ノ教育ハ無償トス。
第二十五条 凡テノ国民ハ勤労ノ権利ヲ有ス。
賃金、就業時間其ノ他勤労条件ニ関スル事項ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム。
児童ノ私利的酷使ハ之ヲ禁止セラルベシ。
第二十六条 勤労者ハ団結ノ権利及団体交渉其ノ他ノ集団行為ヲ為スノ権利ヲ保障セラルヘシ。
第二十七条 財産権ハ侵カサルルコトナシ。
然シ財産権ハ公共ノ福祉ニ適応スベク法律ヲ以テ之ヲ定ム
私有財産ハ公正ナル補償ヲ与ヘ公共ノ福祉ノ為必要ナル処分ヲナスコトアルベシ
第二十八条 何人モ権限アル司法官憲カ発給シ訴追ノ理由タル犯罪ヲ明示セル逮捕状ニ依ルニアラスシテ逮捕セラルルコト無カルヘシ但シ犯罪ノ実行中ニ逮捕セラルル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第二十九条 何人モ訴追ノ趣旨ヲ直チニ告ケラルルコト無ク又ハ直チニ弁護人ヲ依頼スル特権ヲ与ヘラルルコト無クシテ逮捕又ハ拘留セラレサルヘシ何人モ適当ナル理由無クシテ拘留セラレサルヘシ要求アルトキハ右理由ハ公開廷ニテ本人及其ノ弁護人ノ面前ニ於テ直チニ開示セラルヘシ
第三十条 何人モ国会ノ定ムル手続ニ依ルニアラサレハ其ノ生命若ハ自由ヲ奪ハレ又ハ刑罰ヲ科セラルルコト無カルヘシ又何人モ裁判所ニ出訴スル権利ヲ奪ハルコト無カルヘシ
第三十一条 人民カ其ノ身体、家庭、書類及所持品ニ対シ侵入、捜索及押収ヨリ保障セラルル権利ハ相当ノ理由ニ基キテノミ発給セラレ殊ニ捜索セラルヘキ場所及拘禁又ハ押収セラルヘキ人又ハ物ヲ表示セル逮捕状ニ依ルニアラスシテ害セラルルコト無カルヘシ
各捜索又ハ拘禁若ハ押収ハ権限アル司法官憲ノ発給セル各別ノ逮捕状ニ依リ行ハルヘシ
第三十二条 公務員ニ依ル拷問又残虐ナル刑罰ハ絶対ニ之ヲ禁ス
第三十三条 一切ノ刑事訴訟事件ニ於テ被告人ハ公平ナル裁判所ノ迅速ナル公開裁判ヲ受クル権利ヲ享有スヘシ
刑事被告人ハ一切ノ証人ヲ訊問スル有ラユル機会ヲ与ヘラルヘク又自己ノ為ノ証人ヲ公費ヲ以テ獲得スル強制的手続ニ対スル権利ヲ有スヘシ
被告人ハ常ニ資格アル弁護人ヲ依頼シ得ヘク若シ自己ノ努力ニ依リ弁護人ヲ得ル能ハサルトキハ政府ニ依リ弁護人ヲ附添セラルヘシ
何人モ同一ノ犯罪ニ因リ再度厄ニ遭フコト無カルヘシ
第三十四条 何人モ自己ニ不利益ナル証言ヲ為スコトヲ強要セラレサルヘシ
自白ハ強制、拷問若ハ脅迫ノ下ニ為サレ又ハ長期ニ亘ル逮捕若ハ拘留ノ後ニ為サレタルトキハ証拠トシテ許容セラレサルヘシ
何人モ自己ニ不利益ナル唯一ノ証拠カ自己ノ自白ナル場合ニ於テハ有罪ノ判決又ハ刑ノ宣告ヲ受クルコト無カルヘシ
第三十五条 何人モ実行ノ時ニ於テ合法ナリシ行為又ハ既ニ無罪ヲ宣告セラレタル行為ニ因リ刑罰ヲ科セラルルコト無カルヘシ
第四章 国会
第三十六条 国会ハ国権ノ最高機関ニシテ国ノ唯一ノ立法機関トス。
第三十七条 国会ハ衆議院及参議院ノ両院ヲ以テ成立ス。
第三十八条 両議院ハ国民ニ依リ選挙セラレ国民全体ヲ代表スル議員ヲ以テ組織ス。
両議院ノ議員ノ員数ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム。
第三十九条 両議院ノ議員及其ノ選挙人タル資格ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム。但シ性別、人種、信条又ハ社会上ノ身分ニ依リテ差別ヲ附スルコトヲ得ズ。
第四十条 衆議院議員ノ任期ハ四年トス。但シ衆議院ノ解散ニ依リ其ノ満期前ニ終了スルコトヲ妨ゲズ。
第四十一条 両議院議員ノ選挙、選挙区及投票ノ方法ニ関スル事項ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム。
第四十二条 参議院議員ノ任期ハ第一期ノ議員ノ半数ニ当ル者ノ任期ヲ除クノ外六年トシ、各種ノ議員ニ付三年毎ニ其ノ半数ヲ改選ス。
第四十三条 何人ト雖モ同時ニ両議院ノ議員タルコトヲ得ズ。
第四十四条 両議院ノ議員ハ法律ノ定ムル所ニ依リ国庫ヨリ相当額ノ歳費ヲ受ク。
第四十五条 両議院ノ議員ハ法律ノ定ムル場合ヲ除クノ外国会ノ会期中逮捕セラルルコトナシ。会期前ニ逮捕セラレタル議員ハ其ノ院ノ要求アルトキハ会期中之ヲ釈放スベシ。
第四十六条 両議院ノ議員ハ議院ニ於テ為シタル演説、討論又ハ表決ニ付院外ニ於テ責ヲ負フコトナシ。
第四十七条 国会ハ少クトモ毎年一囘之ヲ召集ス。
第四十八条 内閣ハ臨時議会ヲ召集スルコトヲ得。各議院議員ノ総員四分ノ一以上ニ当ル者ノ要求アリタルトキハ之ヲ召集スルコトヲ要ス。
第四十九条 衆議院解散ヲ命ゼラレタルトキハ解散ノ日ヨリ四十日以内ニ衆議院議員ノ総選挙ヲ行ヒ、其ノ選挙ノ日ヨリ三十日以内ニ国会ヲ召集スベシ。
衆議院解散ヲ命ゼラレタルトキハ参議院ハ同時ニ閉会セラルベシ。
第五十条 両議院ハ各々其ノ議員ノ選挙、任命又ハ資格ニ関スル争訟ヲ裁判ス。
議員タルコトヲ証セラレタル者ノ地位ヲ剥奪スル裁判ヲ為スニハ出席議員ノ三分ノ二以上ノ多数ヲ以テ議決ヲ為スコトヲ要ス。
第五十一条 両議院ハ各々其ノ総員三分ノ一以上出席スルニ非ザレバ議事ヲ開キ議決ヲ為スコトヲ得ズ。
両議院ノ議事ハ此ノ憲法ニ特例ヲ定メタル場合ヲ除クノ外出席議員ノ過半数ヲ以テ之ヲ決ス。可否同数ナルトキハ議長ノ決スル所ニ依ル。
第五十二条 両議院ノ議事ハ公開ス。秘密会ヲ開クコトヲ得ズ。
両議院ハ其ノ議事ノ記録ヲ保存シ、且之ヲ公刊シテ公衆ニ頒布スベシ。
出席議員ノ五分ノ一以上ノ要求アルトキハ議事ニ対スル各議員ノ賛否ヲ議事録ニ記載スベシ。
第五十三条 両議院ハ各々議長其ノ他ノ役員ヲ選任ス。
両議院ハ各々其ノ会議及議事ニ関スル規則ヲ定メ、議員ニシテ紀律ヲ乱ルモノアルトキハ之ヲ処罰スルコトヲ得。但シ議員ヲ除名スルニハ出席議員三分ノ二以上ノ多数ヲ以テ議決ヲ為スコトヲ要ス。
第五十四条 法律案ハ此ノ憲法ニ特別ノ定ヲ為シタル場合ヲ除クノ外両議院ニ於テ可決セラレタルトキ法律トシテ成立ス。
衆議院ニ於テ可決シ参議院ニ於テ否決シタル法律案ハ衆議院ニ於テ出席議員三分ノ二以上ノ多数ヲ以テ再度可決スルトキハ法律トシテ成立ス。
参議院ガ衆議院ノ可決シタル法律案ヲ受領シタル後議会休会中ノ期間ヲ含メ六十日以内ニ何等ノ議決ヲ為サザルトキハ衆議院ハ参議院ガ右法律案ヲ否決シタルモノト看做スコトヲ得。
第五十五条 予算ハ前ニ衆議院ニ提出スベシ。
予算ニ関シ参議院ニ於テ衆議院ト異リタル議決ヲ為シタル場合ニ於テ、法律ノ定ムル所ニ依リ両議院ノ協議会ヲ開クモ仍意見一致セザルトキハ衆議院ノ決議ヲ以テ国会ノ決議トス。
第五十六条 前条第二項ノ規定ハ条約、国際約定及協定ノ締結ニ要スル国会ノ協賛ニ付之ヲ準用ス。
第五十七条 両議院ハ各々国務ニ関スル調査ヲ為シ、之ニ関スル証人ノ出頭、証言ノ供述及記録ノ提出ヲ要求スルコトヲ得。此ノ場合ニ於テハ法律ノ定ムル所ニ依リ其ノ要求ニ応ゼザル者ヲ処罰スルコトヲ得。
第五十八条 内閣総理大臣及国務各大臣ハ両議院ノ一ニ議席ヲ有スルト否トヲ問ハズ何時タリトモ法律案ニ付討論ヲ為ス為出席スルコトヲ得。質問又ハ質疑ニ対スル答弁ヲ要求セラレタルトキハ出席スルコトヲ要ス。
第五十九条 国会ハ罷免ノ訴追ヲ受ケタル裁判官ヲ裁判スル為両議院ノ議員ヲ以テ組織スル弾劾裁判所ヲ構成スベシ。
弾劾ニ関スル事項ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム。
第六十条 衆議院ハ本憲法ノ効力発生ノ日ヨリ参議院ノ正式ニ成立スル迄ノ間国会トシテノ権限ヲ行フ。
第五章 内閣
第六十一条 行政権ハ内閣之ヲ行フ。
第六十二条 内閣ハ其ノ首長タル内閣総理大臣及法律ヲ以テ定ムル其ノ他ノ国務大臣ヲ以テ組織ス。
内閣ハ行政権ノ行使ニ付国会ニ対シ連帯シテ其ノ責ニ任ズ。
第六十三条 内閣総理大臣ハ国会ノ決議ヲ以テ選定ス。此ノ選定ノ議事ハ他ノ凡テノ議事ニ先チテ之ヲ行フベシ。
衆議院ト参議院トガ異リタル選定ヲ為シタル場合ニ於テ、法律ノ定ムル所ニ依リ両議院ノ協議会ヲ開クモ仍意見一致セザルトキハ衆議院ノ決議ヲ以テ国会ノ決議トス。
第六十四条 内閣総理大臣ハ国会ノ協賛ヲ以テ国務大臣ヲ選定ス。此ノ協賛ニ付テハ前条第二項ノ規定ヲ準用ス。
内閣総理大臣ハ任意ニ国務大臣ノ罷免ヲ決定スルコトヲ得。
第六十五条 内閣ハ衆議院ニ於テ不信任ノ決議案ヲ可決シ又ハ信任ノ決議案ヲ否決シタルトキハ十日以内ニ衆議院ヲ解散セザル限リ総辞職ヲ為スコトヲ要ス。
第六十六条 内閣総理大臣欠クルニ至リタルトキ又ハ衆議院議員総選挙ノ後ニ於テ初メテ国会ノ召集アリタルトキハ内閣ハ総辞職ヲ為スコトヲ要ス。
第六十七条 前二条ノ場合ニ於テハ内閣ハ新ニ内閣総理大臣ノ任命セラルル迄ノ間仍其ノ職務ヲ行フベシ。
第六十八条 内閣総理大臣ハ内閣ヲ代表シテ法律案ヲ提出シ、一般国務及外交関係ノ状況ヲ国会ニ報告シ、且行政各部ヲ監視董督ス。
第六十九条 内閣ハ他ノ一般政務ノ外特ニ左ノ事務ヲ執行ス。
一 法律ヲ誠実ニ執行シ国務ヲ掌理スルコト
二 外交関係ヲ処理スルコト
三 条約、国際約定及協定ヲ締結スルコト但シ時宜ニ従ヒ事前又ハ事後ニ於テ国会ノ協賛ヲ得ルコトヲ要ス
四 国会ノ定ムル規準ニ従ヒ内政事務ヲ掌理スルコト
五 予算ヲ作成シテ国会ニ提出スルコトv
六 此ノ憲法及法律ノ規定ヲ実施スル為命令及規則ヲ制定公布スルコト但シ其ノ命令及規則ニハ特ニ当該法律ノ委任アル場合ヲ除クノ外刑罰規定ヲ設クルコトヲ得ズ
七 大赦、特赦、減刑、刑ノ執行停止及復権ヲ決定スルコト
第七十条 凡テノ法律及命令ハ主務大臣署名シ、内閣総理大臣之ニ副署スルコトヲ要ス
第七十一条 国務各大臣ハ其ノ在任中ハ内閣総理大臣ノ許諾ナクシテ訴追セラルルコトナシ、但シ之ニ因リテ訴追ノ権利ヲ害スルコトヲ得ズ。
第六章 司法
第七十二条 司法権ハ凡テ最高裁判所及法律ヲ以テ定ムル其ノ他ノ下級裁判所之ヲ行フ
特別裁判所ハ之ヲ設置スルコトヲ得ズ行政機関ハ終審トシテ裁判ヲ行フコトヲ得ズ
凡テ裁判官ハ其ノ良心ニ従ヒ独立シテ其ノ職権ヲ行ヒ此ノ憲法及法律ニ依ルノ外其ノ職務ノ執行ニ付他ノ干渉ヲ受クルコトナシ
第七十三条 最高裁判所ハ訴訟手続、弁護士ニ関スル事項、裁判所ノ内部規律、司法事務処理並ニ司法権ノ自由ナル行使ニ関スル事項ニ関スル規則ヲ定ムルノ権限ヲ有ス
検察官ハ最高裁判所ノ定ムル規則ニ従フコトヲ要ス最高裁判所ハ下級裁判所ニ関スル制規ヲ定ムルノ権限ヲ之ニ委任スルコトヲ得
第七十四条 裁判官ハ裁判ニ於テ心神ノ耗弱又ハ身体ノ故障ニ因リ職務ヲ執ルコト能ハズト決定セラレタル場合ヲ除クノ外公開ノ弾劾ニ依ルニ非ザレバ罷免スルコトヲ得ズ裁判官ハ行政官庁ノ懲戒処分ヲ受クルコトナシ
第七十五条 最高裁判所ハ法律ノ定ムル員数ノ判事ヲ以テ之ヲ構成ス此等ノ裁判官ハ凡テ内閣ニ於テ之ヲ任命シ満七十歳ニ達シタル時退官スルモノトス
最高裁判所ノ裁判官ノ任命ハ其ノ任命後最初ニ行ハルル衆議院議員総選挙ノ際国民ノ審査ニ付シ爾後十年ヲ経過シタル後最初ニ行ハルル衆議院議員総選挙ノ際更ニ審査ニ付ス其ノ後ニ於テ亦同ジ
前項ノ場合ニ於テ投票者ノ多数ガ裁判官ノ罷免ヲ可トスルトキハ当該裁判官ハ罷免セラルベキモノトス
前二項ニ規定スル審査ニ関スル事項ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム
此等ノ裁判官ハ凡テ定期ニ適当ノ報償ヲ受クルモノトス此ノ報償ハ在任中之ヲ減額スルコトヲ得ズ
第七十六条 下級裁判所ノ裁判官ハ最高裁判所ノ指名シタル者ノ名簿ニ就キ内閣ニ於テ之ヲ任命ス此等ノ裁判官ハ凡テ十年ヲ以テ其ノ任期トシ再任ヲ妨ゲズ裁判官ハ凡テ定期ニ適当ノ報償ヲ受クルモノトス此ノ報償ハ在任中之ヲ減額スルコトヲ得ズ裁判官ハ満七十歳ニ達シタル後ハ在任スルコトヲ得ズ
第七十七条 最高裁判所ハ最終裁判所ニシテ、一切ノ法律、命令、規則又ハ処分ノ憲法ニ適合スルヤ否ヲ決定スルノ権限ヲ有ス
第七十八条 裁判ノ対審及判決ハ公開廷ニ於テ之ヲ行フベシ。但シ裁判所ガ全員一致ヲ以テ公ノ秩序又ハ善良ノ風俗ヲ害スルノ虞アリト決シタル場合ニ於テハ対審ハ非公開ニテ之ヲ行フコトヲ得尤モ政治ニ関スル犯罪出版物ニ関スル犯罪及此ノ憲法第三章ノ保障スル国民ノ権利ニ係ル事件ノ対審ハ常ニ之ヲ公開スルコトヲ要ス
第七章 会計
第七十九条 国ノ財政ヲ処理スルノ権限ハ国会ノ議決ニ基キ之ヲ行使スルコトヲ要ス
第八十条 新ニ租税ヲ課シ又ハ現行ノ租税ヲ変更スルハ国会ノ協賛又ハ国会ノ定ムル条件ニ依ルニ非ザレバ之ヲ為スコトヲ得ズ
此ノ憲法施行ノ際現ニ行ハルル租税ハ国会ガ之ヲ変更スルニ至ル迄ハ現行ノ法令ニ従ヒ之ヲ徴収ス
第八十一条 国費ヲ支出シ又ハ国ニ於テ債務ヲ負担スルハ国会ノ議決ニ基クニ非ザレバ之ヲ為スコトヲ得ズ
第八十二条 内閣ハ毎会計年度ノ予算ヲ調製シ国会ニ提出シテ其ノ審議及協賛ヲ受クベシ。
第八十三条 予見シ難キ予算ノ不足ニ充ツル為国会ノ協賛ヲ経テ予備費ヲ設ケ内閣ノ責任ヲ以テ之ヲ支出スルコトヲ得
予備費ノ支出ニ付テハ凡テ内閣ニ於テ国会ノ承諾ヲ受クルコトヲ要ス
第八十四条 世襲財産ヲ除クノ外皇室ノ財産ハ凡テ国ニ属ス皇室財産ヨリ生ズル収益ハ凡テ国庫ノ収入トシ法律ノ定ムル皇室経費ノ支出ハ予算ニ由リ議会ノ協賛ヲ経ベシ
第八十五条 公金其ノ他ノ公ノ財産ハ宗教制度若ハ宗教団体ノ使用、便益若ハ維持ノ為又ハ国ノ管理ニ属セザル慈善、教育若ハ博愛ノ事業ニ対シ之ヲ出捐スルコトヲ得ズ。
第八十六条 国ノ収入支出ノ決算ハ凡テ毎年会計検査院之ヲ検査シ内閣ハ次年度ニ於テ其ノ検査報告ト共ニ之ヲ議会ニ提出スベシ
会計検査院ノ組織及職権ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム
第八十七条 内閣ハ国会及国民ニ対シ定期ニ且少クトモ毎年一囘国ノ財政状況ニ付報告ヲ為スベシ。
第八章 地方自治
第八十八条 地方公共団体ノ組織及運営ニ関スル事項ハ地方自治ノ本旨ニ基キ法律ヲ以テ之ヲ定ム。
第八十九条 地方公共団体ニハ法律ノ定ムル所ニ依リ其ノ議事機関トシテ議会ヲ設クベシ
地方公共団体ノ長、其ノ議会ノ議員及法律ノ定ムル其ノ他ノ吏員ハ当該地方公共団体ノ住民ニ於テ直接之ヲ選挙スベシ
第九十条 地方公共団体ハ其ノ財産ヲ管理シ、事務ヲ処理シ及行政ヲ執行スルノ権能ヲ有シ、且法律ノ範囲内ニ於テ条例ヲ制定スルコトヲ得
第九十一条 一ノ公共団体ニノミ適用アル特別法ハ法律ノ定ムル所ニ依リ当該地方公共団体ノ住民多数ノ承認ヲ得ルニ非ザレバ国会之ヲ制定スルコトヲ得ズ
第九章 改正
第九十二条 此ノ憲法ノ改正ハ各議院ノ総員三分ノ二以上ノ賛成ヲ以テ国会之ヲ発議シ国民ニ提案シテ其ノ承認ヲ経ベシ。国民ノ承認ハ議会ノ定ムル所ニ依リ行ハルル投票ニ於テ其ノ多数ノ賛成アルコトヲ要ス
憲法改正ニ付前項ノ承認ヲ経タルトキハ天皇ハ国民ノ名ニ於テ憲法ノ一部ヲ成スモノトシテ直ニ之ヲ公布スベシ。
第十章 最高法規
第九十三条 此ノ憲法並ニ之ニ基キテ制定セラレタル法律及条約ハ国ノ最高法規トシ、其ノ条規ニ矛盾スル法律、命令、詔勅及其ノ他ノ政府ノ行為ノ全部又ハ一部ハ其ノ効力ヲ失フ。
第九十四条 此ノ憲法ノ日本国民ニ保障スル基本的人権ハ人類ノ多年ニ亙ル自由獲得ノ努力ノ成果ニシテ、此等ノ権利ハ過去幾多ノ試練ニ堪ヘ現在及将来ノ国民ニ対シ永遠ニ神聖不可侵ノモノトシテ賦与セラル。
天皇又ハ摂政及国務大臣、両議院ノ議員、裁判官其ノ他ノ公務員ハ此ノ憲法ヲ尊重擁護スルノ義務ヲ負フ。
第十一章 補則
第九十五条 此ノ憲法実施ノ際現ニ在任スル国務大臣、両議院ノ議員、裁判官其ノ他ノ公務員ハ此ノ憲法ノ条規ニ拘ラズ後任者ノ選挙又ハ任命ニ至ル迄現行法令ノ定ムル所ニ従ヒ仍其ノ任ニ留マルモノトス。 |