三部ノ内第一号
(極秘)
会見記
二月廿二日(午后二時乃至三時四十分聯合軍司令部ニ於テ)会見
(吉田外相ト共ニホイツトネー将軍以下四人ト)顛末略
一、「司令部案作成ノ趣旨ハ諒承セリ(殊ニ二十一日ノ首相ト司令官トノ会見ノ次第ノ報告ニ依リ)而シテ右案ノ根本主義(フアンダメンタルプリンシプル)ハ当方案ト多ク差ナシ茲ニ承知シタキハ其ノ基本形態(ベーシツク、フオームス)トシテ採用ヲ要求セラルル諸点ナリ之ヲ具体的ニ説示セラレ得ヘキヤ否ヤ」
「右案ハ法典トシテ一体ヲ成セルモノニシテ其何レノ章、何レノ条規カ基本形態ニ当ルトノ説示ハ困難ナリ畢竟スルニ些末ノ点ハ適宜変更ヲ許スモノト解サレタシ」
二、「然ラハ我現行憲法ヲ基礎トシ之ニ改正(従来規定ノ改正ト新規定ノ追加)ヲ加フルノ方法ヲ採ルハ如何」
「右ノ点ハ一応ハ考ヘタルコトアルモ到底之ニテハ目的ヲ達シ難シ」
三、「右ノ案中ノ前文(日本国民ノ憲法制定、旧法廃止ノ宣言)ハ憲法ノ一部ヲ成ス プレアンブル ナルヤ否ヤ」
「然リ」
「然ラバ右前文ノ形式ハ我憲法カ 天皇ノ発議ニ依リテノミ改正セラルヘキ主義ト副ハス仍テ右前文ノ趣旨ヲ 天皇ヲ主体トスル表示方法ニ改ムル要アルヤト思ハル此ノ点ハ認メラルルヤ否ヤ」
「新憲法カ人民ノ発意ニ依ル旨ヲ中外ニ宣明スルハ此ノ際必要ナリ 現行憲法第七十三条トノ牴触ハ別ニ インペリアル、レスクリプト ヲ発シ右前文ヲ附セル新憲法ノ如キ改正案ヲ発議スル旨ヲ宣明スレハ可ナルヘシ」(?)
四、「右御説明ノ前文形式ト現行第七十三条トノ調和ノ問題ハ甚難問ナルヘキカ更ニ右案第九十二条ト現行憲法第七十三条トハ如何ナル関係ニ立ツヤ第九十二条ハ第七十三条ト牴触セル故第七十三条ヲ改廃セスシテ第九十二条ノ方法ニ依ルハ困難ナリト考フルモ如何」
暫時研究打合セノ末
「右両条ノ内容ハ同一ナリ」
「然レトモ第七十三条ハ両院ノ議決ヲ要シ第九十二条ハ一院ノミノ議決ニ依ルモノトセルニ非スヤ」
「第九十二条ニDietトアルハ現行法上ハ両院ナリ故ニ両条間ニ差ナシ」(?)
「次ニ第七十三条ハ両院共ニ総員三分ノ二以上ノ出席アルヲ要件トスルモ第九十二条ニハ此ノ要件ナシ此点如何」
之ニ対シテハ返答ニ窮セル如ク「総員」ノ意味ノ説明ヲ求ムル等種々ノ経緯アリ各員間ノ意見モ一致セサリシカ如シ然モ「ホイツトネー」将軍ハ事実上ハ遂行シ得ヘシト云フカ如キ発言ヲ為セリ
五、「第二章戦争廃棄ノ規定ハ一個ノ宣言タルニ止マリ寧ロ前文中ニ置クヲ相当トスルカ如ク思ハルルカ如何」
「此ノ規定ハ最モ顕著ニ世界ノ人目ヲ聳動スルヲ要スルモノナレハ断シテ条文中ニ置クヘク 余(ホイツトネー)ハ之ヲ第一条ニ置キタシト考ヘタル程ノ規定ナリ」
六、「皇室典範ハ現行法上ハ皇室ノ自治法ト認メ居レリ右案第二条カ議会ノ規定トセル点ハ変更ノ余地ナキヤ」
「変更ヲ認メス何事モ人民ノ主権的意思ニ依リテ定ムルヲ要スレハナリ」
七、「第三章人民ノ権利及義務中ノ規定ノ中ニハ我邦現行ノ諸法規ト徒ニ重複シ又ハ意味ナク矛盾セルモノアルカ如シ適宜之ヲ整理スルコトヲ認メラレサルヘキカ」
「之ヲ認メス現行法中ニ重複規定アルモノアリトスルモ之ヲ憲法ニ掲クルトキハ「シユプリムロー」ト為ルヲ以テ意義ヲ異ニスヘシ即チ此等ノ規定ハ法律ヲ以テ紛更スルヲ許ササルモノトスルノ要アルナリ」
八、「第四章議会ハ一院制ヲ採レルモ二院制ハ絶対ニ認メラレサルヤ」
「二院ハ米国等ト国情ヲ異ニスル日本ニテハ無用ト考フルモ強テ希望アレハ両院共ニ民選議院ヲ以テ構成セラルル条件下ニ之ヲ許スモ可ナリ」 (此ノ点十三日ノ初会見ニ於テ当方ヨリ両院制ノ作用ニ付一言シ置キタル結果譲歩セルモノナラン)
「上院ヲ民選議員ヨリ成ルモノトスル場合ノ民選ノ意義如何、複選ハ可ナルヤ」
「複選ハ可ナリ」
「府県会議員等ヲ選挙人トスルハ如何」
「右ハ民選ナリ」
「例ヘハ商業会議所議員ヲ選挙人トスルカ如キ職業代表ハ如何」
「右ハ民選的ト認メ得ス」?
「議員ノ少数者ヲ勅任トスルハ如何」
「右ハ認メ得ス」
九、「此ノ案ニ就キ之ヲ我国ニ適当ナル表現ニ依リ法文化スルハ甚困難ナリ殊ニ我国ニ於テハ用語文章ノ些細ノ点ニ於テ論議ヲ起スコト多シ(「人民ノ名ニ於テ」問題ヲ引用セリ)果シテ困難ヲ克服シ得ヘキヤ否ヤ自信ナキモ極力勉強スル考ナリ而シテ速ニ此ノ難事業ヲ成就スルハ尚更困難ナリ」
「極メテ速ナルヲ要ス貴下ノ能力ヲ以テスレハ容易ナラン」?
十、「右ノ案ノ実現ニ付直ニ研究ニ着手スヘキコトヲ約ス又来廿六日ハ閣議定日ナルヲ以テ今日ノ結果ニ付報告スル考ナリ」(以上ヲ以テ大略トス努メテ円滑ニ和気藹々裡ニ会見ヲ終リタリ 然モ衷心ハ憂慮ニ耐ヘス)
松本烝治手記 |