改正憲法私案要綱 高野岩三郎(「新生」昭和二一年二月號所載)

(「新生」昭和二一年二月号所載)

改正憲法私案要綱

高野岩三郎

改正憲法私案要綱

根本原則

天皇制ニ代ヘテ大統領ヲ元首トスル共和制ノ採用

第一 主権及ビ元首

日本国ノ主権ハ日本国民ニ属スル
日本国ノ元首ハ国民ノ選挙スル大統領トス
大統領ノ任期ハ四年トシ再選ヲ妨ゲザルモ三選スルヲ得ズ
大統領ハ国ノ内外ニ対シ国民ヲ代表ス
立法権ハ議会ニ属ス
議会ノ召集開会及ビ閉会ハ議会ノ決議ニヨリ大統領之ニ当ル大統領ハ議会ヲ解散スルヲ得ズ
議会閉会中公益上緊急ノ必要アリト認ムルトキハ大統領ハ臨時議会ヲ召集ス
大統領ハ行政権ヲ執行シ国務大臣ヲ任免ス
条約ノ締結ハ議会ノ議決ヲ経テ大統領之ニ当ル
爵位勲章其他ノ栄典ハ一切廃止ス、其ノ効力ハ過去与へラレタルモノニ及ブ

第二 国民ノ権利義務

国民ハ居住及ビ移転ノ自由ヲ有ス
国民ハ通信ノ自由ヲ有ス
国民ハ公益ノ必要アル場合ノ外其ノ所有権ヲ侵サルルコトナシ
国民ハ言論著作出版集会及ビ結社ノ自由ヲ有ス
国民ハ憲法ヲ遵守シ社会的協同生活ノ法則ヲ遵奉スルノ義務ヲ有ス
国民ハ納税ノ義務ヲ有ス
国民ハ労働ノ義務ヲ有ス
国民ハ生存ノ権利ヲ有ス
国民ハ教育ヲ受クルノ権利ヲ有ス
国民ハ休養ノ権利ヲ有ス
国民ハ文化的享楽ノ権利ヲ有ス

第三 議会

議会ハ第一院及ビ第二院ヲ以テ成立ス
第一院ハ選挙法ノ定ムル所ニ依り国民ノ直接選挙シタル議員ヲ以テ組織ス
第二院ハ各種職業等ニ(原文ノママ)其ノ中ニ於ケル階層ヨリ選挙セラレタル議員ヲ以テ組織ス議員ノ任期ハ三年トシ毎年三分一ヅツヲ改選ス
何人モ同時ニ両院ノ議員タルコトヲ得ズ
二タビ第一院ヲ通過シタル法律案ハ第二院ニ於テ否決スルコトヲ得ズ
両院ハ各々其ノ総議員三分ノ一以上出席スルニ非ザレバ議決ヲナスコトヲ得ズ
両院ノ議事ハ一切公開トシ之ヲ速記シテ公表ヅ
両院ハ各々其ノ議決ニヨリ特殊問題ニ付キ委員会ヲ設ケコレニ人民ヲ召喚シ意見ヲ聴問スルコトヲ得
両院ノ議員ハ院内ニ於テナシタル発言及ビ表決ニ付キ院外ニ於テ責ヲ負フコトナシ
両院ノ議員ハ現行犯罪ヲ除ク外会期中又ハ院ノ許諾ナクシテ逮捕セラルルコトナシ
両院ハ各々政府又ハ大臣ニ対シ不信任ノ表決ヲナスコトヲ得此ノ場合政府又ハ大臣ハ直チニ其ノ職ヲ去ルベシ

第四 政府及ビ大臣

政府ハ各省大臣及ビ無住所大臣ヲ以テ組織ス

第五 経済及ビ労働

土地ハ国有トス
公益上必要ナル生産手段ハ議会ノ議決ニ依り漸次国有ニ移スヘシ
                      労働ハ如何ナル場合ニモ一日八時間ヲ超ユルヲ得ズ
労働ノ報酬ハ労働者ノ文化生活水準ニ下ルコトヲ得ズ

第六 文化及科学

凡テ教育其他文化ノ享受ハ男女ノ間ニ差異ヲ設クベカラズ
一切ノ教育ハ真理ノ追官真実ノ闡明ヲ目標トスル科学性ニ其ノ根拠ヲ置クベシ

第七 司法

司法権ハ裁判所構成法及ビ審法ノ規定ニ従ヒ裁判所之ヲ行フ
司法権ハ行政権ニヨリ侵サルルコトナシ
行政官庁ノ処分ニヨリ権利ヲ傷害セラレ又ハ正当ノ利益ヲ損害セラレタリトスル場合ニ対シ別ニ行政裁判所ヲ設ク

第八 財政

国ノ歳出歳入ハ詳細明確ニ予算ニ規定シ毎年議会ニ提出シテ其ノ承認ヲ経ベシ
予算ハ先ヅ第一院ニ提出スベシ其ノ承認ヲ経タル項目及ビ金額ニ就テハ第二院之ヲ否決スルヲ得ズ
租税ノ賦課ハ公正ニ行ハレ苟モ消費税ヲ偏重シテ民衆ノ負担ノ過重ヲ来サザルヤウ注意スルヲ要ス
歳入歳出ノ決算ハ速ニ会計検査院ニ提出シ其ノ検査確定ヲ経ル後政府ハ之ヲ次ノ会計年度ニ議会ニ提出シテ承認ヲ得ベシ

第九 憲法ノ改正及ビ国民投票

将来此ノ憲法ノ条項ヲ改正スルノ必要アリト認メタルトキハ大統領又ハ第一院若クハ第二院ハ議案ヲ作成シ之ヲ議会ノ議ニ附スベシ
此ノ場合ニ於テ両院ハ各々其ノ議員三分ノ二以上出席スルニ非ザレバ議事ヲ開クコトヲ得ズ出席議員三分ノ二以上ノ多数ヲ得ルニ非ザレバ改正ノ議決ヲナスコトヲ得ズ
国民全般ノ利害ニ関係アル問題ヲシテ国民投票ニ附スル必要アリト認ムル事項アルトキハ前掲憲法改正ノ規定ニ準ジテ其ノ可否ヲ決スベシ

(付 枢密院ハ之ヲ廃止ス)
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