吉田茂書翰 牧野伸顕宛

牧野父上様 必親展

封 十月十三日 吉田茂

拝復、憲法問題ニ就てハ首相ニ於てハ先つ其必要の有無を討究し必要ありとせハ如何なる点ニ改正を加ふへきや重要なる問題ニ付又最重要なる国務ニ付政府ニ於て松本国務相をして四五の学者を集め余り角立たす研究を進むへしと考へ居られ其手筈進行中の処、今朝の新聞ニ兎角の発表有之、今朝閣議ニ於て彼此審議の末(新聞発表ニ付)幸ひ今日午後一時近ヱ公首相訪問の筈ニ付内大臣府側と話合、斯る重要問題ハ軽々ニ論議すへきニ非る事、宮中政府両者ニ於て別別ニ審議し居るか如き躰裁とならぬよう而して政府ニ於て目立たすしかも審議調査を進めつつある事、決して等閑を附し居らぬ事を暗示致候様の形ニて新聞訂正方首相ニ一任し今朝の新聞発表の善後策を講することニ致候、宮内省側か又ハ近ヱ公かが昨日の申合せ(近ヱ公ハ単ニ憲法問題ニ限らす重要なる諸般の問題ニ付内府の相談相手となる為御用掛ニなれりと発表することニ内府首相の間ニ申合せ)ニ反し宮内省か先つ憲法問題ニ積極的ニ乗出せるか如き感しを世間ニ与へしかニ思ハれ内閣側ハ頗る困却致居候 不取敢右御内報迄、書外ハ後鴻万縷可仕候 太賀吉和子ハ両三日中ニ飛行機席取れ次第ニ上京可仕候
十月十三日 茂
牧野父上様
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